F1 2022年シーズン開幕特集

角田裕毅は「今季どこまでやれるのか?」 F1ジャーナリストがひいき目ナシで検証する

柴田久仁夫(auto sport)

どん底から復活した角田

1年前の角田と比べるとF1への理解度が深まり、チームにも溶け込み、何より本人が冷静に開幕への準備を進めているのが印象的 【Red Bull Content Pool】

 さて、ここからは角田本人だが、年明け以降何度かリモート取材を重ねてきて、筆者が印象深く思ったことがある。それは1年前には感じられなかった落ち着き、余裕だった。

 思えばちょうど1年前のバーレーンテストで、ルーキーの角田はマックス・フェルスタッペンに次ぐ2番手タイムをたたき出し、F1関係者たちの度肝を抜いた。同じバーレーンでの開幕戦ではその勢いを駆って、セバスチャン・ベッテルやフェルナンド・アロンソら世界チャンピオンたちを次々に抜き去る走りで、9位入賞を果たした。

 しかし「当然、表彰台を狙いにいった」第2戦エミリアロマーニャGP(イタリア・イモラ)では、予選Q1でいきなりクラッシュを喫し、レースは12位完走が精一杯。そこから長い低迷状態に入った。なんとか結果を出そう、失った自信を取り戻そうとさまざまなアプローチを試み、もがき苦しんだ。

 そんなどん底から復活していく角田の姿は、現在配信中のドキュメンタリー「The Birth Of An F1 Driver角田裕毅ルーキーイヤーの素顔」の最終回で、詳細に描かれている。

 大きな転機となったのが、シーズン終盤第16戦トルコGPだった。雨のレースで8周に渡って王者ルイス・ハミルトンを抑え切った。安定した走りを実現できた要因のひとつが、シャシー交換だった。その結果、それまで抱き続けた運転中の挙動の違和感がすっかり消えた。

「モノに対する信頼が回復し、ドライバーのメンタルも改善する。チームはそこも当然狙っていたはずです」と、元F1ドライバーで、角田の師でもある中野信治はドキュメンタリーの中で語っている。さらに角田には同じ時期から、先輩ドライバーのアレックス・アルボンが帯同した。貴重なアドバイスを得ただけでなく「メンタル的にもすごく助けになった」と角田は振り返っている。

 シーズン終盤の角田は見違えるように走りが安定し、本来の速さが復活していた。それでもなかなか結果には結び付かなかったが、もはや角田に焦りはなかった。そして最終戦アブダビGPで、自己最高位の4位入賞をもぎ取る。

「チームメイトを負かす」

昨年の最終戦アブダビGPでは、チャンピオンチーム・メルセデスのバルテリ・ボッタスを抜き、自己最高位となる4位を獲得した角田 【Red Bull Content Pool】

 その結果と同じか、ひょっとするとそれ以上に大きな収穫と思われるのが、初日フリー走行からレースまでの全セッションで、チームメイトのガスリーをしのぐ速さを発揮したことだった。レース最終周には激しい、しかし実にフェアなバトルを2人で演じ、ガスリーを下している。

 そこまでの21戦すべての予選で負け続けてきたガスリーに勝ったことは、すでにほぼ自信を取り戻していた角田にとって、最後のひと押しになった。

 2年目の抱負を尋ねた際、角田は「チームのためにできるだけ多くのポイントを取る」と答えてからすぐ、「チームメイトを負かすこと」と付け加えた。1年前だったら、根拠のない気負いと感じたことだろう。しかしいまの角田には、それも可能かもしれないと思わせる何かがある。

 去年のアルファタウリはフェラーリやマクラーレンに並ぶマシン戦闘力があったはずだが、結果的には彼らに100ポイント以上の大差をつけられての選手権6位が精一杯だった。理由は明らかで、ほぼガスリーだけがポイントを稼いでいたからだ。

 その意味でも今季の角田には、ガスリーと同じレベルのポイント獲得が求められる。もちろん角田自身も、そこは充分承知していることだろう。ガスリーと同じ速さ、強さを発揮すれば「同等のポイント獲得」の目標は自ずから達成できるはずだ。

 取り戻した自信、そして18インチタイヤや車重増ですっかり挙動が変化した2022年型マシンへの適応の速さを見る限り、2年目の角田には充分期待できそうだ。

2/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント