堀島行真が銅獲得で日本勢メダル第1号 モーグル頂上決戦の雌雄を西伸幸が解説
金メダル争いは攻めの姿勢を貫いたバルベリに軍配
「作戦」で勝敗が分かれたところはあると思います。予選からしっかり勝ち上がれるように安全に滑る選手もいますが、バルベリ選手は最初から最後まで徹底的に攻め続けていました。一方、絶対王者と呼ばれるキングズベリー選手は、決勝3回目の堀島選手のミスを見ていたこともあり、安全な滑りをしていたように思います。
もちろん、堀島選手もキングズベリー選手も攻めていたと思いますが、バルベリ選手は予選から決勝まで一貫して攻め続けていたので、気持ちの強さの面では一枚上手だったと思います。
――モーグルにおける「作戦」とは具体的にどんな内容でしょうか?
モーグルは1人ひとりが順番に滑るため、滑走順によって前の選手がどんな滑りをしたか、どんな得点だったかを把握できます。なので、それを踏まえて作戦を立てるんですよ。具体的には、前の選手がミスをしたので、エアの難易度を下げて確実に勝ちにいく滑りをするなどが挙げられますね。
しかし、バルベリ選手は前の選手の失敗を見ても関係なしに、常に自身の最高のパフォーマンスを追求して攻め続けるという作戦を貫いていました。ターン、エア、スピードの3要素で採点されるモーグルですが、技術的な得点の概念を超えてしまうくらい、すごく気持ちが入っていました。“見る者の心を動かす圧巻の滑り”だったと思います。
――バルベリ選手の金メダルは、納得の結果だったように思います。
バルベリ選手は世界ランキングでも3位なので、堀島選手、キングズベリー選手に次ぐ選手として今大会で活躍する可能性を感じていました。私自身の経験から語らせていただきますが、「五輪では少しでも守りに入ったら勝つことができない」と感じています。
もちろん、他の選手の状況に応じて作戦を考えることは重要です。しかし、何が起こるか分からない五輪では、一貫した強い気持ちが最後の命運を分けると感じています。最高峰の舞台、そして極限の精神状態の中で、最後まで攻め続けたバルベリ選手は強かったですし、やはり金メダルにふさわしかったと思います。
――堀島選手も最後は気持ちの入った滑りだったように見えました。
堀島選手も滑り切った後に叫ぶくらいガッツポーズをしていましたね。普段はどんなに良い滑りをしても感情を表に出すことはないのですが、気持ちを前面に出す堀島選手を初めて見て心が震えました。決勝3回目でも第1エアでのミスがなければ、十分に金メダルを狙えるくらい素晴らしい滑りだっただけに、悔やまれるところはあります。しかし、本当に攻め切った結果の銅メダルなので、この経験は彼の今後の糧になると思っています。
――今大会は次回のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に向けても期待できる内容だったように思います。ネット上では「男子モーグル」トレンド入りするなどして大変盛り上がりました。
多くの方にモーグルを見ていただけて、さらに選手たちを応援していただけて嬉しい限りです。惜しくも予選で敗退した松田颯選手(しまだ病院)、決勝3回目には進めなかった原大智選手(日本スキー場開発ク)、杉本幸祐選手(デイリーはやしや)を含めた日本チームは、全体的にとてもバランスが取れたチームだったと思います。
決勝の1回目では、一時日本チームがワンツースリーだった時間帯(最終的に杉本が2位、原が3位、堀島が5位)もあり、試合の流れを日本勢が作っていた場面もありました。また、選手たちはみな、結果にかかわらず真摯にインタビューに対応するなど、素晴らしい人間性を持ち合わせています。競技力も人間力も兼ね備えた素晴らしいチームですので、次回のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪がとても楽しみです。
西伸幸(にしのぶゆき)