連載:プロ野球選手の「攻略本」

オリ・山本由伸に弱点はあるのか…? データが示した攻略法は「外野フライ」

21年日本シリーズ第6戦。3敗で後がない中で9回1失点、141球の熱投を見せた山本由伸 【写真は共同】

 NPBでトップを走る選手たちをデータから徹底検証。その中で見つけた選手の長所と攻略法を当連載「プロ野球選手の攻略本」にて紹介する。今季はこの「プロ野球選手の攻略本」を手元に置いて、アナリストの気分で観戦を楽しんでみてはいかがだろうか。第6回となる今回はオリックス・山本由伸の攻略法に触れていく。

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 まだ記憶に新しい2021年日本シリーズ第6戦。2勝3敗で後がなくなったチームの期待を一身に背負ったオリックス・山本由伸は、冬の声が聞こえる寒空の中で9回1失点、141球の熱投を披露した。東京五輪も含めて開幕から休むことなく投げ続けたとは思えないパフォーマンスではなかっただろうか。

 最多勝、最高勝率、最優秀防御率、最多奪三振と取りうるタイトルをすべて手中に収め、沢村賞に輝いた山本。彼がどういう投手かを簡潔に述べると、球が速く球種が豊富で制球力も一級品。つまり投手の理想に限りなく近い存在だ。

2021年B山本:球種別各種データ

【データ提供:データスタジアム】

 より詳しく見るために各種データを列挙した。投球の基本といえるストレートは平均球速152.1キロを記録する。この剛速球に加えて球界屈指のスピードを誇るカットボールで打者を追い込み、4球に1度は空振りを奪う質の高いフォークで三振の山を築く。変化の大きなカーブも打者にとっては厄介な球種で、速球を意識していた打者がタイミングを外されて、ど真ん中のカーブを2ストライクで見逃してしまうことも珍しくはない。

 またカットボールと10キロほど差があり、より大きく曲がるスライダーは使用頻度こそ高くないもののあなどれない球種だ。前述の日本シリーズ第6戦では打者の3巡目から投球の20%を占めるほどに増やし、ヤクルト打線に狙いを絞らせなかった。あまり投げない球種でもいざとなれば多用できるほどの精度と自信がある、まだ引き出しには武器が残っているということだ。しかも、与四球率1.86という数字からもわかるように簡単には四球を出さないため、自滅からチャンスをうかがうことも難しい。

 この山本を攻略するには何が有効なのか。打者の左右、カウント、塁状況、球種ごとの投球コースや試合の立ち上がりなどさまざまな切り口で傾向を探ったものの、明確なウイークポイントといえるほどのものは見当たらなかった……というのが率直なところだ。

 そこで、山本個人の攻略という視点から一歩離れて、自身がコントロールできない要素で得点の確率を上げる方法を考えていきたい。

2021年パ・リーグ:外野手の守備貢献

【データ提供:データスタジアム】

 注目はオリックスの外野守備である。この図表は外野手の守備の貢献度を示したもので、橙色のプラスは守備による失点阻止、青色のマイナスは逆に失点を増やしてしまったことを示す。図表を見ると、オリックスの両翼は大きなマイナスとなっている。左翼手は主に吉田正、右翼手は杉本が務めたが、ともに高い打撃力を発揮するものの守備に難がある選手だ。吉田正はいわずとしれたチームの顔であり、昨年ブレークした杉本とともに打線で欠かせない存在だけに、守備に不安を抱えていたとしてもスタメン出場が続くはずである。チームとして対策しようがないこのポイントに、山本攻略の糸口を見いだせないだろうか。

 2017年頃からMLBで話題になったフライボール革命は、ゴロからは長打が生まれづらいことから打球を打ち上げて長打を増やそうという考え方であり、NPBにも根付いて久しい。つまり外野への飛球狙いは、対オリックスに限らず得点効率の改善に有効な手段の一つということだ。山本と対峙する打線としては相手チームの守備も鑑み、長打になりやすい外野へのフライ打球の発生確率を上げることで、山本から得点を奪う機会を増やしたい。

2021年B山本:1スイングあたりの外野フライ割合

【データ提供:データスタジアム】

 さて、山本から確率高く外野へ打球を運ぶためには、どこに狙いを定めるべきか。この図は投手から見た投球ゾーンをストライクは9分割、ボールは4分割して、それぞれのエリアで1スイングあたりの外野フライになる確率を示したものである。この図を見ると、左打者は内角寄りのエリア、右打者も内角寄りを中心に外角にも一部確率が高いエリアがある。これらを参考にさらに狙いを絞りたい。

 まず左打者は、外に逃げながら落ちるために当てることもままならないフォークが多い外角を捨てる。さらに主要な4球種のうち速球などとは軌道が異なるカーブ狙いを避けたいところだ。なぜなら、左打者にとってフォークに次いで1スイングあたりで外野フライになりづらい球種が割合9%のカーブだからである。割合13%と比較的フライになりやすいストレートを狙ってフォークの空振りはやむを得ないところだが、打球を上げづらいカーブは狙いから外しておきたい。

 一方の右打者は手元に食い込む速球のさばきが得意であれば内角、外角のカットボールにバットが届く打者であれば外角に照準を定めたい。カットボールは左打者にとっては内角に食い込んでゴロになりやすい球種だが、右打者にとっては1スイングあたり21%が外野フライになる球種で、狙っていきたいボールだ。いずれにしても狙いは速球であり、打球を上げづらいカーブは可能な限り手を出さないことが重要となる。あらためて整理すると

・カーブを狙わない
・左打者は内角を意識し、外角は捨てる
・右打者は特徴に合わせて、内か外かの狙いを定める


 以上を実践できれば、山本攻略のきっかけになりうる外野フライの発生確率は上がるだろう。

 さしもの山本も日本シリーズの第1戦では簡単に凡退しないヤクルト打線の粘りに苦労し、6回を投げきるのに112球を要した。山本から得点を挙げることより早期に降板させてリリーフ陣と勝負するというのも悪い作戦ではないだろう。22年シーズンから、試合が同点の場合は延長12回まで実施する方向で調整中ということを踏まえるとなおさらである。

 1月下旬の段階ですでに155キロを計測する様子を自身のSNSに投稿するなど、ここまで順調な仕上がりがうかがえる山本に対し、相手打線はどのような作戦で臨むのか。たとえあっさり見逃し三振に倒れたとしても、そこには次の打席につながる駆け引きがあったのかもしれない。そのような想像をしながら、山本と各打者の対決を見ていただければ幸いだ。
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