W杯アジア最終予選展望 中村憲剛×岩清水梓 吉田麻也の不在を逆にチャンスと捉えたい

吉田治良

新たなリーダーが台頭するチャンス

キャプテンの吉田麻也を故障で欠く、今回のホーム2連戦。痛手には違いないが、逆にこれをチャンスと捉え、新しいリーダーが現れることを願いたい 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

──国内組のオフ期間に開催される1、2月の代表戦は、昔からコンディショニングが難しいと言われています。しかも、調整を兼ねて組まれていた1月21日のウズベキスタンとの強化試合も、新型コロナウイルスの感染再拡大によって中止になってしまいました。

中村 サッカーはコンディションがとても重要だと僕は思っています。戦術も技術ももちろんとても大事ですが、前提としてフィジカルとメンタル両方のコンディションが整っていないと、良いプレーはできません。もっとも、今の代表は海外組が多いし、ウインターブレークがあったとはいえ、彼らはシーズン中ですし、試合をこなしていますからね。海外組がオフ明けで、Jリーガーも夏場の疲れを引きずっていた昨年9月に比べたら、そこまで状態は悪くないはずです。

──ただ、キャプテンの吉田麻也選手がケガで招集外となった影響は大きいのでは?

中村 東京五輪も含め、昨年からいろいろなものを背負い過ぎているなと感じていましたが、それでも彼は、すべてを引き受けた上で、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。ピッチ上はもちろん、ピッチ外でも彼が掛ける言葉がチームをまとめていたところがあると思うので、正直、痛いことは間違いないと思います。

 ただ同時に、新たなリーダーが台頭するチャンスでもあると思うんです。未来永劫、吉田選手が代表でプレーするわけではないので、ここで誰かがキャプテンシーを発揮して、この大事な2連戦を勝ち抜くことができれば、それは日本代表にとって大きなトピックになります。大切な役割を担う選手がいないならば、誰かがやるしかないんです。

岩清水 誰にリーダーシップを期待しましょうか?

中村 大迫(勇也)選手なのか、遠藤航選手なのか……。まあ、誰かがやるんですよ。というか、いなければ自然と出てくるものです。しかも、もし負ければ、「やっぱり麻也がいなかったから」となるので、みんなそんなことは絶対に言わせまいと懸命に戦うはずだし、勝ったら勝ったで、今度は吉田選手が良い意味での危機感を抱くでしょう。こうした状況をピンチだと思うか、チャンスだとポジティブに捉えるかでチームは変わってきますが、僕は後者の方に期待しています。

──大黒柱の澤(穂希)さんが引退された後のなでしこは、いかがでしたか? チームに危機感はありましたか?

岩清水 私の場合、澤さんがいなくなったときよりも、その前のキャプテンで、最終ラインでセンターバックのコンビを組ませてもらっていた池田(浩美/旧姓磯崎)さんが、08年の北京五輪を最後に引退されたときの方が危機感はありましたね。これからは自分がやらなきゃいけないって、そこで責任感が芽生えたように思います。

 もちろん澤さんが引退されたときも、背骨を失ったような感覚になりました。最後に一緒に戦った15年のカナダ女子W杯ではベンチに座っていることも多かったんですが、それでもいるといないとではまるで違った。「澤さんがいるから大丈夫」っていう精神的な支えを失ったというか……。こんなにも大きな存在だったのかって、いなくなって初めて気づかされましたね。

中村 そういうものですよね。だって、いたら分からないですもん。

サウジ戦の話をするのは中国に勝ってから

2試合区切りの最終予選を、「毎回、大会の初戦を迎えるようなもの」と表現した岩清水梓選手(右)。憲剛さんも、「まずは最初の中国戦にしっかり勝つこと」と強調する 【スポーツナビ】

──では憲剛さん、今回の中国、サウジアラビアとの2連戦のキーポイントを教えてください。

中村 まずは、最初の中国戦にしっかり勝つこと。昨年の最終予選は、11月のアウェー2連戦こそ連勝しましたが、9月と10月のシリーズはいずれも初戦で負けている。2戦区切りの初戦って、本当に難しいんです。メンバーがそろうのも試合の2日前とか3日前ですからね。そこで勝ち点3を取り切れるかどうか。内容以上に求められるのは結果。苦戦はしてほしくないですけど、非常に難しい戦いになるのは間違いない。

岩清水 先ほどもおっしゃったように、割り切った戦い方も必要になりますか?

中村 そうですね。オーストラリア戦の前みたいに後がない状況ではありませんが、この2戦で現在3位のオーストラリア以下との差を広げるには、どうしても連勝したい。そのためにも、いかに充実した心身両面のコンディションを保って試合に臨めるか。そこが球際の激しさなど、プレーの細部に影響してくるんじゃないかと思います。

岩清水 まずは中国戦か……。たしかに2連戦の初戦は苦労してますよね。

中村 そうなんですよ。みんなサウジ戦のことしか言わないから。中国に勝って、初めてサウジ戦の話をしましょうと、そこは強く言っておきたい。

岩清水 予選が2試合ずつしか組まれないと、毎回大会の初戦を迎えるみたいな感じじゃないですか。それって、想像しただけでもきつい。だからこそ、やっぱりベテランの力が大事になってくるんじゃないかなって思うんですけど、どうですか?

中村 結局、「空気を引き締める」という点で言えばそこを担えるのはベテランなんですよ。若い選手たちは、猪突猛進でいいと思う。そのエネルギーを全力でチームのために出してくれればいい。それをうまく整えるのがベテランの仕事なのかなと。それは試合に出る、出ないにかかわらず。ただ、今の代表は年齢構成のバランスがかなり良くなってきてると思います。そこは森保さんが東京五輪代表の監督を兼任していたメリットのひとつだと思います。U-24代表からA代表への吸い上げというか、移行がスムーズでしたよね。A代表で碧や薫が結果を残し、中山(雄太)が戦力になっている現状を見て、自分もっていう若手がこれからも出てくると思います。

岩清水 今回はケガで残念ながら招集外になりましたが、私は三笘選手の代表での活躍に期待しています。チームメートの三浦成美が幼なじみなので、勝手に親近感を覚えていて(笑)。

中村 出れば何かやってくれるだろうっていう期待感がありますよね。今は至るところで「三笘、三笘」って名前を聞きますし。

──久保(建英)選手も代表復帰を果たしましたね。

岩清水 そうだ、久保選手もいた!(笑)。

中村 だから、本当にタレントが多いんですよ。前線なんか特に、2、3チーム組めるくらいの選手層がありますからね。森保さんも誰を使うか頭を悩ませると思いますよ。逆にある程度、持ち駒が限られた方が、ピッチ上に阿吽の呼吸は作りやすい。でも、そこも含めて代表監督のマネジメントですからね。まずは中国戦のスタメンに注目しましょう。
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ。東京都小平市出身。都立久留米高(現・東京都立東久留米総合高)、中央大を経て2003年に川崎フロンターレ加入。中心選手として17年、18年、20年のJ1リーグ優勝、19年のルヴァンカップ制覇など数々のタイトル獲得に貢献。Jリーグベストイレブンには8回選出。16年には歴代最年長の36歳で年間最優秀選手賞に輝く。06年10月にデビューの日本代表では、通算68試合・6得点。10年の南アフリカW杯にも出場した。20年限りで現役引退。現在は古巣・川崎でFrontale Relations Organizer(FRO)を務めるとともに、解説者としても活躍中だ。

岩清水梓(いわしみず・あずさ)
1986年10月14日生まれ。岩手県滝沢市出身。中学1年で現在の日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織であるメニーナに入団。2003年には正式にベレーザに昇格し、以来ベレーザ一筋を貫き、数々のタイトルを獲得した。なでしこジャパンでのデビューは06年2月18日のロシア戦。統率力に優れ、セットプレーからの得点力も備えた不動のセンターバックとして、11年のドイツ女子W杯優勝、12年のロンドン五輪銀メダルなどに貢献した。日本代表歴は122試合・11得点。20年3月に男児を出産後も、現役女性アスリートとして第一線で活躍する。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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