戦力外2度も“佑の恋女房”は社会人で現役続行中 細山田武史が秘める亡き両親への思いと夢

三和直樹

2度目の戦力外からの“決断”

2度の戦力外を経て名門トヨタ自動車に入社。正捕手としてチームを都市対抗初優勝に導いた 【写真は共同】

 ソフトバンクには育成選手として加入したが、2年目の2015年4月には支配下登録された。そして6月5日の巨人戦(東京ドーム)では、スタメンマスクを任され、内海哲也からタイムリーを放って自身4年ぶりの安打&打点を記録。本人は「打てたのはたまたま。それよりも捕手として投手をうまくリードできなかった悔しさの方を覚えています」と懐古するが、戦力外からの復活劇には多くのファンが拍手を送った。さらに同年のリーグ優勝、日本一の歓喜もチームの一員として間近に味わった。

 しかし、人生とは悲喜こもごも。そのシーズンオフに自身2度目の戦力外通告を受けることになった。そして“新たな道”を決断することになる。

「もう1年ぐらいはできるかなと思っていましたけど、仕方ないです。支配下にしてもらったのも捕手陣に故障者が続出したおかげでしたからね。でも戦力外が発表されてすぐに大学の先輩でもあるトヨタの佐竹(功年)さんから電話を受けて、いろいろと話を聞く中で『トヨタでもうひと花咲かせたい』と思った。球団に残るという選択肢を用意してくれた中で、快く送り出してくれたホークス球団の方々にも感謝したいです」

 ソフトバンクからは球団職員としてのオファーも受けていた中、細山田が選んだ道は、社会人野球での新たなチャレンジだった。「妻は僕が決めたことに付いてきてくれた」と細山田。その“信頼”に対する“責任”も背負った中での決断だった。

「身体的にもまだやれるし、気持ち的にもまだ野球をやりたいっていう思いがありましたし、複数年契約的な形で一般企業に入って、家族を安心させいという思いも強かったですね。僕自身、たまたまですけど、大学時代に早稲田で日本一になって、プロではソフトバンクで優勝の瞬間にベンチにいることができて、日本一のチームの一員にもなれた。『じゃあ、あとは社会人野球で日本一になれたら格好いい』って思った」

 すると入社1年目の2016年の7月、トヨタ自動車は第86回都市対抗野球で勢いよく勝ち上がり、悲願の初優勝を飾る。「自分でも驚きでした。いい選手が揃っていましたし、タイミングが良かったですね」と語るが、正捕手として投手陣をリードし、打者としても準々決勝でサヨナラ打を放った男の貢献度は、非常に高かった。

引退後の“いつの日か”の目標

 入社1年目に「社会人でも日本一』の目標を達成し、今年が6年目。35歳となったコーチ兼任捕手の細山田は、「兼任と言っても、ほぼコーチです。選手としての気持ち的な区切りは付いている。いつ引退してもいいと思っています」と明かす。そして引退後も「トヨタに骨を埋める覚悟です」と語るが、同時に“次なる目標”についても熱く、語る。

「いつの日になるかは分からないですけど、高校野球の指導者、監督になりたい。それはプロ時代からずっと思っていたこと。高校生を指導するには、人間的に尊敬されていなくちゃいけないですし、教育の一環としての知識も情熱も持っていなくちゃいけない。自分自身が未熟なままではやれない仕事だと思います。だからこそ、やりたい。自分の野球人生の最終的なゴールはやっぱり、そこにある」

 すでに学生野球資格は回復済み。「高校野球の監督として日本一」への道はそう簡単なものではないが、大学、NPB、社会人での日本一の経験だけでなく、1軍の正捕手、ベンチ、2軍暮らし、リハビリ、育成契約、3軍でのプレーと様々な境遇を味わったことは、指導者としての懐の深さにつながるはずだ。そして、思う。

「結局、自分のことだけ、自分だけのためにやっていると続けられない。誰のために、何のために、という理由が必要ですし、それをその都度、見つけて行くことが大事なのかなと思います。家族のため、仲間のため、チームのため。何でもいいですけど、そういう使命感がなければ続かないと思います」

 この「誰かのために」という心は、両親から学んだものでもある。大学4年生だった2008年、チェコでの世界選手権に参戦中に父を亡くし、プロ入りしてからの苦闘の日々を見守ってくれた母も、息子の結婚を見届けるように2015年12月に他界したが、その存在は常に側に感じている。

「僕が大事にしているものは4つ。『愛情』、『感謝』、『貢献』、そして『楽しむ』ということ。そういう思いを持って毎日過ごしていますし、その一番根っこの部分を教えてくれた両親には感謝しています。だから毎朝、家を出る前に父と母の写真の前で『今日もありがとう』と伝えています」

 仏前で静かに手を合わせる。その傍らには、「ナンマイダ、しよ」と駆け寄る3歳の愛娘の姿もある。一人の男として、夫として、父として。35歳となった細山田は、「人生100年の時代なので、定年後もまだまだ元気なはず」と未来に目を向ける。体が動く限り、チャレンジを続け、大好きな野球を楽しむつもり。生きている限り、野球への情熱が冷めることはない。

「プロ野球戦力外通告」

【写真提供:TBS】

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著者プロフィール

1979年1月1日生まれ。大阪府出身。学生時代からサッカー&近鉄ファン一筋。大学卒業後、スポーツ紙記者として、野球、サッカーを中心に、ラグビー、マラソンなど様々な競技を取材。野球専門誌『Baseball Times』の編集兼ライターを経て、現在はフリーランスとして、プロ野球、高校野球、サッカーなど幅広く執筆している。

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