宮本恒靖、あの“アブダビの夜”を語る W杯最終予選の記憶と後輩たちへのエール

二宮寿朗

トータルでマネジメントするのが最終予選

W杯最終予選はホームとアウェイそれぞれに難しさがある。宮本さんは「トータルでマネジメントしていく」ことの重要性を語る 【DAZN】

――バーレーンにアウェイで勝利してW杯出場に王手をかけます。宮本さんのなかでは“もう大丈夫”という確信めいたものはあったのでしょうか?

 ありました。一つの勝利でガラッとチームの空気が変わりましたから。自分たちのチームに対する自信、そして互いの信頼関係が深まったので。タイに移動しての試合(無観客での北朝鮮戦)が待っていましたけど、本当に確信めいたものはありました。

――大黒選手がまさにそうでしたが、アジア最終予選は一夜にしてヒーローが誕生する場でもあります。

 FWの選手は特にそういうモチベーションがあっていいと思います。日本代表チームを救いたい、プラス、のしあがっていきたいみたいなところがあっていい。短時間で表現できるのがサッカーの良さというか、サッカーが持っている一つの価値なのかなとは思いますね。

――逆にDFはなかなかヒーローにはなりにくい。失点しないように、仕事としてはかなり大変ですけど。

 ホームの観衆の声援に背中を押されて、両サイドバックもどんどん上がっていったりしそうになるんですけど、そのときに中盤の守備的な選手を引っ張っておくとか、その作業ですよね。後ろは絶対にリスクを冒さないでとか、そんな会話ばかりしていました。

――実際、ホームとアウェイ、どちらのほうにプレッシャーを感じましたか?

 アウェイにはアウェイなりの難しさがあるんですけど、ホームの方が負けられないプレッシャーはありましたよね。ただ、トータルでマネジメントしていくのが最終予選なのかなとは思います。

――9月からスタートするカタールW杯アジア最終予選はDAZNで全試合配信されることが決まりました。

 東京五輪で多くの方がさまざまなスポーツを見る機会があったと思いますが、DAZNではサッカーだけでなく、野球やバスケットボール、モータースポーツなどいろんなスポーツを見ることができるので、さまざまなスポーツのファンの方にもサッカーを、アジア最終予選を見ていただければと思いますし、サッカーファンの方が他のスポーツも見るというふうに相互につながっていけばいいですよね。

――8月24日からオンエアされるDAZNの新CMでは、ナレーションを担当されています。収録を終えた今、どのような感想を持っていますか?

 ナレーションはこれで3回目なんですが、周りのスタッフの人にうまくサポートしてもらって楽しくできたかなとは思います。前回、ナレーションの仕事をした際、現場にプロの声優さんがいらっしゃったんです。そこでプロの仕事を見せてもらって、言葉で命を吹き込めることを知れたことが大きかった。今回数年ぶりでしたけど、そのときの記憶を思い出しながら、できる限りのことはやったつもりです。

――今回はどんな命を吹き込もうと思ったのでしょうか?

 ナレーションのオファーをもらった際に絵コンテやナレーション原稿を見せてもらったんですが、まずアスリートの心境や隠れた努力に寄り添ったコンセプトにも共感しました。東京五輪で久保建英選手が涙しているシーンを見て、皆さんもいろいろなことを感じたのではないかと思います。そういった部分にストーリーが隠されていると思いますし、スポーツには人々を感動させ、何らかの力を与えることができるとも思っています。自分としてはそういったメッセージは込めさせてもらったつもりです。今回のCMが少しでも人々がスポーツを見ること、そしてスポーツから力を得ることのきっかけになればうれしいですね。

キャプテン吉田麻也へ「受け継がれている」

キャプテンの系譜を継ぐ吉田麻也。宮本さんも「かなり頼もしい存在」と太鼓判を押す 【Getty Images】

――先の東京五輪ではメダルを獲得できませんでしたが、メンバーをそろえてきたスペインやメキシコといった強豪との対戦によって経験値を上げることができたようにも思います。「東京経由カタール行き」と考えれば、これからA代表の競争も激しくなってくるのではないでしょうか?

 厳しい試合をした経験というのは、後々活きてくるとは思います。自分たちの時代を振り返ってみても、そういったところに(チームとしての)強みはあったので、これからもちろん競争はあると思いますけど、今のところいい流れにあるんじゃないかとは思います。

――東京五輪のなかでグッと伸びたと感じた選手は?

 林(大地)選手ですね。JFA・Jリーグ特別指定選手としてサガン鳥栖でプレーしているころから見ていて、ゴール前の鋭さ、怖さはもともと持っていた選手ではありましたけど、そこに至るまでのプレーの質がかなり上がっていたなと思いながら見ていました。

――元キャプテンの目には、吉田麻也キャプテンのリーダーシップはどのように映っていましたか?

 かなり頼もしい存在として若いチームを支えていました。プレーだけじゃなくて言葉においてもそうだと思います。長谷部(誠)選手を見てきて、そこで感じたこともあったと思いますし、受け継がれていくものが今の代表にはあるので、いいなとは思いましたね。

――最終予選を突破した経験者の立場から、また日本代表で一つの時代をつくってきた立場から、今の日本代表に対して何か思うことはありますか?

(代表チームというのは)良いときもあれば、そうでないときもあります。できるだけ安定したところに持っていけるかどうか問われるのが最終予選。国として(積み上げてきた)サッカーの力が問われるところでもあります。地区予選でも、W杯本大会でも。ロシアW杯での(準々決勝)ベルギー戦を経験して、そこからどうしていくのか。いろんなところでいろんな人が努力して、今度は予選のなかでこれまで積み上げてきたものが出てくる。そうして本大会にたどり着いたときにどこにいけるのか。その繰り返し。でも少しずつ成長しているから、個々においても海外でプレーする選手が増えていると思いますし、そこは間違っていないと思っています。

――これまでの経験の一つひとつがチームの力になっていて、最終予選の試合もまたチームの力になっていく、と。

 厳しい試合をしないと強くなっていかないですし、しかも勝つことによってよりグッと伸びていけると思います。それはチームとしても個々としても。ぜひ厳しい試合をみんなの力でモノにしてもらいたいですね。
 
宮本恒靖(みやもと・つねやす)
1977年2月7日生まれ。大阪府富田林市出身。ガンバ大阪ユースから95年にトップチーム昇格。クレバーな守備とリーダーシップに優れたDFとして活躍し、2005年にJリーグ初優勝を達成した。07年にオーストリア1部レッドブル・ザルツブルクに移籍。2年プレーした後、09年にヴィッセル神戸に加入。日本代表では各世代でキャプテンを務め、通算71試合出場・3得点。02年日韓W杯、06年ドイツW杯では最終ラインを統率した。11年12月に現役引退。FIFAマスター修了後、Jリーグ特任理事などを務めた。G大阪ユース、U-23で監督を歴任した後、18年7月にG大阪トップチームの監督に就任。20年にリーグ2位、天皇杯準優勝の実績を残し、21年5月まで指揮を執った。

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著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

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