記録に表れないミスと日本の「つなぐ意識」 野村弘樹が見た韓国戦の勝負の分岐点

平尾類

2死満塁の場面で初球のストレートをたたき、走者一掃の二塁打。2-2の同点で迎えた8回裏に、山田哲人が大きな仕事をやってのけた 【Getty Images】

 野球日本代表「侍ジャパン」が韓国との手に汗握る接戦を制し、決勝進出を決めた。5回までに2点のリードを奪った日本に対し、韓国も6回に同点に追いついて食い下がる。しかし日本は、8回2死満塁から山田哲人の走者一掃の適時二塁打で3点を勝ち越し、勝負を決めた。野球解説者の野村弘樹氏に、韓国戦の激闘を振り返ってもらうとともに、7日に行われる決勝のポイントを挙げてもらった。
 

近藤のスタメン起用は間違っていない

韓国戦に「7番・左翼」でスタメン起用された近藤健介。6回裏にレフト前ヒット、8回裏には勝敗を分ける一塁ゴロを放った 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 本当にしびれる展開でしたね。

 韓国戦であらためて感じたのは、一つのミスが命取りになるということです。8回に山田(哲人)選手が決勝打を放ちましたが、その前に1死一塁の場面で、近藤(健介)選手の一塁ゴロが併殺打になっていれば無得点で終わっていました。タイミングはアウトだったので、一塁のカバーに入った高祐錫投手がベースをきっちり踏んでいればそこでチェンジでした。勝負は紙一重です。記録には表れないミスですが、大きなポイントになったと思います。

 この試合では、二塁のスタメンで初戦から出場していた菊池(涼介)選手を初めて外し、近藤選手を左翼のスタメンに抜てきしました。相手の先発が右のサイドスローの高永表投手だったことから、得点力を上げるために近藤選手を起用したという明確な意図が見えました。近藤選手は左翼の守備で6回に朴海旻選手の打球をファンブルし、二塁への進塁を許しましたが、首脳陣はリスクを冒してでも点を取るという考えで、守備に関しては割り切っていたのではないでしょうか。私は近藤選手をスタメンで起用したことは決して間違ってなかったと思います。
 

「つなぐ意識」で勝利への執念を体現

先発の山本由伸は6回途中まで投げ、被安打5、失点1と試合を作った。その6回には適時打を浴びたが、左翼・近藤の送球を本塁後方でカバーし、打者走者を二塁に進ませず 【写真:ロイター/アフロ】

 日本の最大の武器は「つなぐ意識」だと思います。準々決勝のアメリカ戦では、延長10回のタイブレークで代打出場した栗原(陵矢)選手がきっちり犠打を決めてサヨナラ勝利を呼び込みましたが、韓国戦では3回の無死一塁の場面で、甲斐(拓也)選手が犠打を決められずに2ストライクと追い込まれても逆方向の右前に弾き返したり、5回無死二塁で坂本(勇人)選手が右飛を打ち上げ、山田選手をタッチアップで三塁に進めるなど、つなぐ意識、技術の高さで得点に結びつけました。

 投手陣にもその意識は見られました。先発の山本(由伸)投手は、1死二、三塁のピンチを迎えた初回を無失点で切り抜けたのが非常に大きかったですが、投球以外の細かいプレーも怠らない。6回に姜白虎選手にタイムリーを浴びた際、左翼からの送球が逸れたのを本塁後方できっちりカバーし、打者の二塁進塁を許しませんでした。

 6回途中に救援登板した岩崎(優)投手もタイムリーを浴びて同点に追いつかれましたが、その後のピンチで後続を抑え、勝ち越しを許さなかった。「打たれても最少失点に抑えて次の投手につなぐ」という意識が投手陣全員に浸透しています。

 日本のこの「つなぐ意識」は世界一だと思います。野球の神様は見ています。ここまでの4試合の勝利はほんのわずかな差ですが、勝つことができたのはフォア・ザ・チームに徹し、勝利への執念を体現しているチームだからだと思います。
 

決勝の先発は森下か田中か、難しい選択

2日のアメリカ戦に先発して4回途中6安打3失点だった田中将大。投手陣のリーダーとして、決勝戦はどのような役割を与えられるだろうか 【Getty Images】

 韓国戦で勝ったことで、7日の決勝まで2日空きます。負ければタイトなスケジュールになっていただけに、これは大きい。有利な状況で決勝を迎えられるのは間違いありません。

 決勝の相手は韓国、アメリカのどちらになるか分かりませんが、どっちが勝ち上がってきても難敵です。ただ、今の日本の打線には、2点、3点のビハインドであればはね返せる破壊力があります。一方の投手陣は1点を怖がらないことが重要です。本塁打の出やすい横浜スタジアムは、慎重になりすぎるあまり、走者をためた後に本塁打を浴びて大量失点を喫することがあります。無失点に抑えようと過剰に意識せず、繊細さの中にも大胆な投球をしてほしいですね。

 決勝の先発は森下(暢仁)投手、田中(将大)投手のどちらかだと思いますが、難しい選択ですね。ファンの皆さんにはステイホームで、先発投手やスタメン予想を酒のつまみにしながら、楽しんでもらえればと思います。
 
(企画構成/YOJI-GEN)
 
野村弘樹(のむら・ひろき)
1969年6月30日生まれ、広島県広島市出身の52歳。PL学園高の3年春夏に甲子園に出場し、背番号1の主戦投手として春夏連覇に大きく貢献。打撃センスも高く、高校通算53本塁打を放った。87年ドラフト3位で大洋(現DeNA)に入団。プロ3年目の90年に先発ローテーションに定着して11勝、翌91年は15勝を挙げて左のエースに。93年には17勝をマークして最多勝を獲得。98年にはチームトップの13勝でチームを38年ぶりのリーグ優勝、日本一に導いた。通算301試合登板、101勝88敗、防御率4.01。02年限りで現役引退し、横浜でコーチを務めた。現在は野球評論家として活動している。
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著者プロフィール

1980年4月10日、神奈川県横浜市生まれ。スポーツ新聞に勤務していた当時はDeNA、巨人、ヤクルト、西武の担当記者を歴任。現在はライター、アスリートのマネジメント業などの活動をしている。

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