瀬戸大也の敗因、池江璃花子のこれから 競泳初日の明暗を岩崎恭子が解説

C-NAPS編集部

金メダル候補と言われた瀬戸大也だが、男子400メートル個人メドレーで決勝進出を逃す憂き目に 【写真は共同】

 7月23日に開会式を終え、本格的に競技がスタートした東京五輪。24日には競泳が初日を迎え、各種目に多くの日本人選手が登場した。女子400メートルリレー予選では、白血病を克服して五輪の舞台に立った池江璃花子(ルネサンス)が第2泳者として出場。しかし、惜しくも全体の9位となり決勝進出を逃した。

 大橋悠依(イトマン東進)が女子400メートル個人メドレー決勝に、武良竜也(ミキハウス)が男子100メートル平泳ぎ準決勝に進出を果たすなか、メダル獲得を期待されていた瀬戸大也(TEAM DAIYA)は得意の男子400メートル個人メドレーでまさかの予選敗退。幕開けから大波乱が起こった。

 そんな初日を、1992年バルセロナ五輪の金メダリストで、現在は競泳の指導者・解説者として活動する岩崎恭子さんに振り返ってもらった。

瀬戸大也は「巻き返せる力」を持っている

 最初の種目(男子400メートル個人メドレー)で、瀬戸大也選手が決勝に残れないという予想もしていなかった事態が起きました。

 レース展開をどう考えていたかは本人にしかわかりません。しかし、レース後のインタビューで語っていたように、予選で好記録を出したものの決勝では力を出し切れなかった前回のリオデジャネイロ大会のイメージがあったのでしょう。今回は、「予選で力をセーブして決勝に勝負を懸ける」という考えだったと思いますが、現実は勝負し切れず、その作戦ミスが命取りになりましたね。

 本人いわく調子は悪くなかったようですし、実際にそういう印象を受けました。ただ、最後にペースを上げられなかったところを見ると絶好調ではなかった気はしますね。最後の自由形で追い上げられたときに、体が動けばそのまま逃げ切れる。だからやっぱり、「力を出し切れなかった」というのが正直なところだと思います。ラスト50メートルくらいまでは力をセーブしていたのが見ていてわかったので、「最終的に何がいけなかったのか」を本人も自問自答しているのではないでしょうか。

 幸い、まだ2種目(200メートル個人メドレー、200メートルバタフライ)が残っています。過去に世界選手権でも似たような状況から優勝しているので、「切り替えができるタイプ」の選手です。起きてしまった結果は仕方がないですし、もう次を見据えるしかありません。私は彼のことを10代の頃から見てきましたが、「巻き返せる強さ」を持っている選手だと思っています。

池江璃花子は「出場するだけで意味がある」

女子400メートルリレーは「3分36秒20」のタイムで全体9位に。決勝進出ならず。それでも池江璃花子(右から2人目)の五輪出場には大きな意味がある 【写真は共同】

 女子400メートルリレーは日本記録(3分36秒17)に「0秒03」届きませんでした。正直、0秒03速く泳いだとしても、決勝進出の8位(スウェーデンの3分35秒93)には届かなかったわけで、リレー種目は予選を勝ち抜くチームが順当であることが多いですね。日本は予選2組目の2コースだったので、エントリーの時点で全体の9番目の立ち位置だったんですよね。ただ、決勝進出を目標にしていたので9位というのは悔しかったと思います。

 池江選手が五輪に出場することで、注目度や期待が高まりすぎてしまった感はありました。もちろん、それを彼女も他のメンバーもわかっているので、実力を出し切ろうという気持ちはあったと思います。リレーで重要な「引き継ぎ」の部分も、4月の五輪選考後から4人で取り組んできたのでスタートが遅れることはなかったです。なので、世界とは実力の差がありました。4人それぞれのちょっとずつ足りなかった部分が積み重なり、それが全体の結果に響いてしまう……それがリレーという種目なんです。

 池江選手の泳ぎを見ていて、彼女が持つポテンシャルはやはり素晴らしいという泳ぎでした。(病気になって)ゼロどころかマイナスからの再スタートでしたので、仕方のないことです。以前の自分とはまったく違うことを理解し、「今までの感覚を求めてはいけない」という葛藤はあると思います。人はどうしても今までの自分と比べてしまいますよね。でも彼女は「それをしても仕方がない」というのもわかっているはず……うまく言葉が見つかりませんが、そういう一面を表に見せないところが彼女の強さなんだと思います。

 池江選手が五輪に出場してこの舞台で泳ぐことができただけでも、想像以上のことなんです。なかには(メダルや奇跡を)期待してしまう方もいるかもしれませんが、私は個人的に「出場することに意味がある」というのは、こういうことなんだなと感じました。昨日の彼女の表情から五輪を心から楽しんでいるのが伝わってきました。日本の選手たちにとって五輪の意味や価値は「結果」に左右されますが、それとは異なる点において「池江選手は唯一無二の存在」なのだと思います。

 私の勝手な意見ですが、(出場の可能性がある)女子400メートルメドレーリレー(30日)では、今出せる力を出し切ってほしいです。結果を求めるのは3年後のパリ大会やもっとコンディションが戻ってからでも遅くありません。もちろん、いろんな意見があると思いますが、私はあまり考えすぎずに東京五輪を楽しんでほしいと思います。

武良竜也、大橋悠依の秘めた思いにも注目

女子400メートル個人メドレー予選、大橋悠依は全体3位で決勝進出。競泳陣最初のメダル獲得なるか 【写真は共同】

 他に初日で印象に残ったのは、男子100メートル平泳ぎの武良選手(全体11位で準決勝進出)。順当に予選を通過しましたね。同じ種目に出た佐藤翔馬(東京SC)選手(全体23位で予選敗退)は初めての五輪の雰囲気にちょっと飲まれた感じでしたが、武良選手は持ち味である後半の追い上げが出せていました。注目度はそこまで高くはないかもしれませんが、その分、メラメラした秘めたる闘志が伝わってきました。

 女子400メートル個人メドレーの大橋選手も、メダル候補としてしっかり全体3位で決勝に残りました。彼女のいいところは、ブレがないところ。激しく調子を落とすことがないんです。あれくらいのレベルになると、どの選手もやるべきことはやってきているので、ライバルとの差は精神的な部分に出てくるのではないかと思います。彼女自身もそういった部分が結果に響くことをここ何年かで感じ取ってきたのではないでしょうか。今大会で「集大成を見せるべく着実にステップアップしている」と予選を見て感じたので、決勝の泳ぎも楽しみです。

岩崎恭子(いわさき・きょうこ)

【株式会社スポーツビズ】

1992年バルセロナ五輪200メートル平泳ぎ、競泳史上最年少14歳で金メダル獲得。名言として残るインタビューも相まって、一躍、時の人となった。引退後は児童の指導法を学ぶために米国へ留学し、水泳・着衣泳のレッスンやイベント出演を通して水泳の楽しさを伝える活動をしている。
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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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