五輪代表・新谷仁美が本当に伝えたいこと 女性の体と、自分自身の体験談

田中夕子

全ての取り組みが実を結んだ2020年

2020年は、根本から体作りを見直した。それが日本記録の更新など、快進撃につながったという 【スポーツナビ】

 女性特有の現象は、競技者にとっても、一般女性にとっても悲観すべきことではない。それぞれの症状に耳を傾け、自ら発信を繰り返すうちに、自分自身の体作りに関しても考えを改めるようになった。中でも気を使うようになったのが、身体のベースとなる食事だ。昨年4月からは明治のサポートを受けるようになったこともあり、栄養、食事に対する意識も高まった。

「もともと大食いなんですが、料理が苦手だし、練習まで時間がないから食パンに納豆と卵、キムチを乗せて、牛乳と一緒に食べる、みたいな感じだったんです。だからサポートを受ける時も、まずそこを伝えたうえで、じゃあどういうお惣菜を選べばいいか、冷凍食品でもこんなふうに活用できるとアドバイスをいただいて。『バターは消化に時間がかかるから体力を奪われる』とか、分かりやすく1つ1つ教えていただく中で、なるべく消化にいいもの、体内に負担がかからないような食べ物や食べ方はどうすればいいのかを考えるようになりました」

 栄養サポートは競技成績を求め、世界のトップを取るために不可欠なもの。管理栄養士と細かく話し合いを重ね、苦手だと語るプロテインもさまざまな味を1つ1つ選定し、より飲みやすくするために他の食材と併せてスムージーにするなど、具体的な方法を探し、試みた。

 地道な作業やトレーニングを積み重ね、2020年はそれが最善の形となって表れた。新谷はそう胸を張る。

「生理のことも同じで、プロテインに対しての懸念も自分が体験したことだから伝えていきたいと。2020年はうまく合致した年だったと思うので、それを証明するために2021年が用意されている。だからそろそろスタートを切らないといけないですね」

「スポーツが世界を救うと言う人もいるけど……」

夏に控えた東京五輪へ向けて、「プロとして結果を出さなければいけない」と意気込む 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 本来なら昨夏開催されるはずだった東京五輪は1年延期したが、開幕が迫る現在も延期の要因となった新型コロナウイルスの猛威は衰えず、五輪自体の開催を危惧し、中には不要論を唱える人もいる。

「スポーツを不要不急だと思う方もいらっしゃるのは当然ですよね。私たちにとっては必要だけど、必要な人がいるということは、イコール、必要じゃない人もいるということ。スポーツの世界にいる人たちは『スポーツの力で』と言いますけど、正直、これも私はきれいごとだと思うんです。スポーツの力で、と思う人も当然いるけれど、そう思わない人たちがいることも理解したうえで、私たちは活動していかないといけないと思います」

 競技を続けるうえで支援を受けるのは当たり前ではなく、応援されるのも当たり前ではない。期待に応えるために、求められるのは結果。プロとして重々その意味を理解しているからこそ、結果を出さなければならないと自らに課す。

「結果を出せば、今後私が発する言葉や体験談を伝える時に、その前までは10人にしか届かなかったけれど、次は100人に届くようになるかもしれない。そう考えると絶対、きれいごと抜きで結果は必要なんだって思いますよね。実際に高橋尚子さんや野口みずきさんは、現役を引退されていますけど発信力がある。それは結果があったからこそ響くものでもあるし、耳を傾けてくださる方が多かったからこそ影響力もある。だから私もいい意味で影響力をつくりたいし、過去に私がガリガリで結果を出してしまったことで『痩せればいい』『生理が止まるまで追い込めばいい』と勘違いさせてしまった選手、指導者、親御さんたちに伝えたいんです。

 そのためには東京五輪が今最大の目標に掲げられる大会であるのは間違いないし、今は興味がないと思っていても、見てくださる方も必ずいると思う。だから私利私欲のためじゃなく、その方々に伝わるような形で結果を出すのが一番の目標で、大事なことを伝えたい。伝わるように、私は結果を出したいです」

 結果を求めるべくハードなトレーニングに励み、身体を整え、自身の言葉を伝え続ける。新谷の言葉はいつもストレートだ。

「スポーツは世界を救うとか言う方もいますけど、現実的には救っていないし、そもそも私自身がスポーツ好きじゃない。アスリートは毎日、汗をかくのが気持ちいい! とか思われているなら、伝えたいですよね。私、汗をかいて気持ちいいなんて思ったことないし、むしろ気持ち悪いです、って(笑)。そもそも人の決めつけってすごいじゃないですか。女は愛嬌だとか言うけど、それも可愛い子が笑うから愛嬌があるのであって、みんながみんな愛嬌じゃない。結局顔だろ、とか、メダリストになったら言いたいんですよ(笑)」

 アップデートを繰り返し、貪欲に結果を求める。広く、自らの声を届けるために。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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