全仏準V・大谷桃子が猛追する憧憬の背中 車いすテニス界に輝く日本人スターの系譜
2020年のテニス四大大会・全仏オープン車いすの部女子シングルスで準優勝した大谷桃子が、競技の魅力と東京パラリンピックへの思いを語った 【写真:本人提供】
大谷は小学生の頃にテニスを始め、高校時代にはインターハイに出場する注目株だった。しかし、高校卒業後、病気の治療薬による副作用で車いす生活を余儀なくされた。一度はコートを離れたものの、父の勧めで車いすテニスに出会う。2016年から競技を開始すると、18年のアジアパラ大会シングルスでは銅メダルを獲得。そして、20年の全仏オープンでは初の決勝進出を果たし、上地との日本人対決には敗れたものの準優勝に輝いた。
そんな大谷の憧れは、グランドスラム決勝の大舞台でしのぎを削った1つ年上の上地結衣。そして、現在の目標は、東京パラリンピックの決勝で上地と再戦することだ。先輩の背中を追いかけて世界のトップ選手の仲間入りを果たした大谷は、2021年の夢舞台に向けて何を思い、どんな準備をしているのか。競技の楽しみ方や観戦のポイントとともに、これからテニスを始める子どもたちへのメッセージも聞いた。
相手を迷わすショットが醍醐味
2バウンドでの返球が許されている車いすテニスだからこそ、大谷は1バウンドでも取れそうだと相手が迷うショットを意識的に打ち込んでいる 【Getty Images】
車いすだと1バウンドで追いつくのが大変という考えに基づいたルールですが、実は2バウンドでの返球も意外に難しいんですよ。バウンドが多くなるとボールが遠くに行ってしまうので、その分移動する距離も増えます。そのため、車いすテニスのルール上では2バウンドでもOKですが、1バウンドで返球したほうが試合を有利に進められるんですよね。
私はこれを逆手にとって、相手が1バウンドで返すか2バウンドで返すかを迷うショットを意図的に打っています。そうすると相手は頑張って1バウンドで返そうとすると体勢が崩れますし、2バウンドになるとパワーのある返球がしづらくなります。バウンドの判断が難しいショットによって、戦局を有利に進められることもあるんですよ。そうした相手を困惑させるプレーが見られるのは、車いすテニス独自の面白さだと思います。
大谷(写真左)がクアードではなく女子を選択したのは、上地(写真右)の存在が大きかった。そして、今ではグランドスラムの決勝でしのぎを削るまでになった 【写真は共同】
車いすテニスのプレーでは、チェアワークがもっとも重要ですね。私は中途障がいなので以前までは歩けましたし、健常のテニスもプレーしていました。その際は無意識にボールに反応して足を踏み出せていましたが、車いすは漕ごうと思って漕がないと進みません。止まろうと思って力を入れないと止まらないですし、ターンするのも一苦労です。競技歴4年目になりますが、やっとスムーズにプレーできるようになりました。国枝選手や上地選手ら一流選手は無意識にチェアワークができているので、私ももっと技術を磨かなければならないですね。
それぞれの選手にチェアワークやストロークなどの強みがありますが、私の武器はサーブです。相手が差し込まれるボールを打って腕をたたませたり、車いすをずらしたりすることで返球しづらくさせるのが狙いです。そうするとチャンスボールが来ることが多いので、その後の展開が有利になります。曲げるような軌道で差し込むのか、スピードで差し込むのか、3種類くらいのサーブを使い分けていますので、私の試合を見る時はぜひ注目してください。