連載:「挑戦と葛藤」〜Bリーグ・コロナウイルス対策の舞台裏〜

試合中止や中断でも楽しめるコンテンツを Bリーグ広報責任者がファンに伝えたい事

大島和人

「いいから試合をやってくれ」は難しい

――リーグ、クラブ、経営者のマインドが徐々に「無観客でも難しい」という方へ変わっていった流れを改めて振り返っていただけますか?

 15日の試合が終わったあと、クラブは「無理」と思ったはずです。選手を抑えられないし、「やれ」と言い切れない。われわれも「本当に大丈夫ですか?」と言われたときに、「本当に大丈夫」とは無責任に返せない。

 選手の新型コロナウイルス感染が仮に発覚して、試合が原因だとなったときに、「誰がどういう補償をしているの?」というところまで確約できません。そもそも感染経路が明確になるか分からない。「いいからやってくれ」はさすがに難しかったです。

――増田さんは最初に中止となった14日の「川崎ブレイブサンダースvs.レバンガ北海道」の会場にいました。

 午前中にマーク・トラソリーニ選手(北海道)に熱があると判明した時点で、関係者にまず「ざわつき」がありました。川崎の元沢伸夫社長は「リーグが決めたことなので」といったん納得してくださいましたが、選手は不安だったと思います。

――アリーナ入りの段階で、北海道のケネディ・ミークス選手と市岡ショーン選手も37度台を計測しました。

「さらに二人出てしまったのでもうコントロールできない」という判断は、チームを守らなければいけない(経営者の)立場として当然です。レバンガ北海道の横田(陽)COOも川崎にリスクを背負わせられないという思いがあったので、両社長がそうならば自分が大河に掛け合うと言って、中止が決まりました。

――増田さんは3選手の事態を把握したのは17時40分で、開始の約30分前でした。もっと早く情報が入っていれば決定も早くなったのではないですか?

 17時40分に元沢さん、横田さんから「ちょっと来て」と呼ばれて、「トラソリーニ以外の二人にも微熱がある」と聞きました。

 ルール通りに考えれば、(競技運営と無関係な増田が)知る必要はなかったんです。極端に言えば2日連続でなければ37.5度が10人いてもやるし、仮に3人が登録から外れても10人いました。行動指針から逸脱している状態でなく、ルール的には「やる」状況でした。現場にいたからと言って、競技運営部が私に伝える必要はなかった。仕組み上の欠陥はあったかもしれないけれど「誰が悪かった」ということではないと考えています。

川崎ブレイブサンダースvs.レバンガ北海道の会場にいたため、その場で中止の会見を行った 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

――3月11日(日本時間12日)にNBAのシーズン中断が発表されて、選手の空気感が変わったと聞いています。行動指針の運用が難しかったことは理解できます。

 競技運営部は厚生労働省のガイドラインに準じてルールを作るしかありません。厚生労働省が37.5度が4日間と言っているから……とそのまま入れたわけでもない。(37.5度以上が2日連続という)ガイドラインは、落としどころとして的確だったと思います。細かくルールも決めてあったつもりです。しかし選手とクラブ、リーグに相当な温度差があった。それが2日間で2試合が中止になったポイントだと感じます。

 私が現場にいた感覚だと、日本人と外国人のマインドは全く違います。外国籍選手のよりどころは日本でなく母国で、多くはアメリカです。対話はガス抜きになるかもしれませんが、彼らは「全員検査するべき」「全員陰性だったらやる」となるでしょう。ただそれは現実的には難しいわけです。

――平時ならリーグがクラブの頭越しで選手と直接対話することはないと思います。一方で3月15日以降は対選手のアプローチが増えています。

 この状況でリーグが勝手に決めた、選手が勝手に決めた、クラブが勝手に決めたとなってしまうのはよくありません。選手、クラブ、リーグが同じ意思レベルを持って、「本当に今だからバスケをやらないといけない」と思わないと試合はできない。14日にそう感じて、だから選手会とコミュニケーションを取ろうと話しました。

 17日の実行委員会も、選手会にオブザーバーとして入ってもらいまいた。「試合を止めたほうがいい」と発言する選手はもちろんいますが、私からすると「本当に止めて大丈夫なの?」という部分もあります。仮にクラブが無くなったら引退する選手も出るでしょう。少なくとも(実行委員会を傍聴してもらって)社長たちの温度感を伝えたほうがいいと思ったんです。

「選手のことを考えていない」といった意見も目にしましたが、リーグもクラブも選手の立場を間違いなく真剣に考えています。
――まずは新型コロナウイルス問題を乗り越えることが先決ですが、再び同じような危機が改めて起こる可能性もあります。現時点で今後の教訓として挙げられる要素はありますか?

 僕らは会場を借りているので、スケジュールの制約が強くあります。前々から言っていることですが、アリーナは自前で持つべきだと改めて感じました。いつでも試合をやっている環境になれば、延期分を速やかに回収できますから。

 事業的な観点でいうと、リーグがもっと内部留保をしておくべきだと思います。仮にクラブが経営難になったとき、リーグに参加できなくなると、リーグ全体としての負のインパクトが大きくなる。投資しなければいけない部分もありますけれど、クラブの経営難に対応するためにリーグが留保する金額も持ってもっとおくべきだと思います。

『投げ銭』に頼ってはいけないと思う

――ファンの方には「今こそクラブを支援したい」という声があります。試合が中止になった中で、ファンが何らかの形でお金を落とす方法を検討できませんか?

 バスケットLIVEに応援モードがあって、言ったら「投げ銭」です。それがクラブの収益になります。リーグとしてやっている中で一番分かりやすいものです。

 ただ綺麗ごとかもしれないけれど、そこだけに頼ってはいけないと思うんです。ファンの皆さんのそういうご支援、声援はすごくありがたいですし、クラブも勇気づけられます。しかしビジネスをやっている以上、最終的には自分で解決するしかない。リーグもクラブも選手も一致団結して、ファンの声を聞きながら最後は自力で乗り越えるしかありません。

――試合ができない期間に、試合以外でファンと楽しませるためのアイディアはありますか?

 考え始めたところです。今だからこそ選手の声を届けたり、いろいろなインタビュー企画だったり、ウェブも通じてコンテンツを提供しようと考えて調整しています。
 仮にずっと中断となってしまえば、よりウェブやテレビを通じて見ていただく機会を増やすべきでしょう。ガイドラインに「複数選手を集めた企画は控える」という内容も入れていますけれど、抵触しない形で馬場雄大選手・八村塁選手・渡邊雄太選手がやったインスタライブのような企画ができればいいですね。

 試合のアーカイブを無料開放して、投げ銭をしてもらうようなものもできます。いろいろな選手が家から中継に入ってズームで映して、解説してもらう調整をしています。
“B.LEAGUE EVERYWHERE”というワードをしっかり作ったので、試合が無くなったから終わってしまうのでなく、中止や中断だからこそBリーグを味わえるコンテンツは出していきたいと考えています。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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