生来の明るさを、思いどおりにいかないグラウンドでも失わないこと。その意識は驚くほどプラスの効果をもたらした。

　およそ2週間後の関東大会初戦。常総学院高（茨城）と対戦した桐蔭学園高は、9回裏の攻撃で3点のビハインドを追いつくと、なお2アウト満塁の場面で打席に立った森がサヨナラ本塁打を放つ。劇的な逆転勝利で勢いづいた桐蔭学園は決勝に駒を進め、翌春の甲子園出場を確実にする。春日部共栄高（埼玉）との決勝戦では、森は先制2ランに決勝3ランと、5打点の活躍で24年ぶりの優勝に大きく貢献した。

　プロ球界の目が自分に向けられているらしいと知るのは、この関東大会を終えた後だ。それは森自身にプロへの意識を芽ばえさせたが、「無理だろうな」というのが率直な心情だった。

「（関東大会の好成績は）たまたまだと思っていたので。もちろん、そこからの自分のがんばり次第ではありますけど、こういう形（上位指名）でプロに入るというのは想像はしていなかったです」

　だが、現実に、1年後にそれは起こるのだ。最上位指名まで評価を押し上げたものとは何だったのか。

　森は「甲子園に出たこと」と想像する。

　前段として、関東大会優勝校として出場した秋の明治神宮大会の経験がある。高校に入ってからようやくたどり着いた全国の舞台。意気込んで臨んだものの、遊撃手の森は初戦で3失策をおかし、試合にも敗れた。この時の悔しさを晴らす場所として、翌春の甲子園が控えていた。いまになって思えば、筋書きとしてうまくできていた。

「また全国の舞台に立つチャンスがある。結果を残せば、周りからの評価も上がる。そういう目標があったから、そこに向けての努力により熱が入りました」

　全国クラスの投手が投げるボールをイメージしてバットを振った。全国の舞台でまた恥ずかしい守備はできないと言い聞かせながらノックを受けた。課題だった雑なプレーも「完全にとは言えないけど、少しは克服できたんじゃないかな」。晴れ舞台が用意された春に向け、冬の過ごし方はおのずと充実したものになった。

　センバツでは、個人として3安打と結果を出したが、チームは初戦で敗退した。だが、むしろ、そこに向けて努力を重ねられたこと、甲子園という憧れの場によって一段上のステージへと引き上げられた事実こそが、森にとっては重要だったのではないだろうか。

　片桐監督との2時間におよぶ対話から1年が経ち、森はDeNAからドラフト1位で指名を受けた。

　翌日の指名あいさつの際に設けられた囲み取材での報道陣とのやりとりは、森の性格をよく表していた。

　東京ヤクルトに指名された奥川との将来的な対戦を楽しみにしているという話の流れで、打つ自信を尋ねられると、「あります」と即答。「ドラフトの結果を受け、高校日本代表でともに戦ったメンバーと連絡を取り合ったか」との問いに対する答えは「取ってないです」の一言だけで終わらせ、質問者に二の矢を継がせなかった。裏表のない、真っ正直な一面が垣間見えた。

　森は「（正直だと）よく言われます」と微笑む。

「『表向きにはいいことを言ってるけど、実はこういうやつなんだ』みたいな話が耳に入ってくることってあるじゃないですか。そういうのがイヤなんです。正直に、すべて言うようにしています」

　野球に打ち込んできた森は、それこそ正直に「プロ野球はほとんど見ていない」と言う。これから所属するであろうDeNAでも、どんな選手がライバルになるのか、まだほとんど知らない。

　ただ一つだけ思い描いている目標は、1年目から一軍の試合に出場することだ。

「そんな簡単なことじゃないのはわかっています。でも、そういう目標があったほうが気持ちが入るし、練習への取り組み方も変わってくると思う。あの一軍の注目度のなかでプレーができたら最高じゃないですか。それを目指します」

　いよいよプロの門をくぐるにあたって、森は新たに座右の銘となる言葉を探した。いろいろなフレーズに目を通していくなかで、一つ、これだと思うものに行き当たった。

　それが『明月之珠（めいげつのたま）』という言葉だ。意味は、暗闇でも自ら光を放って照らす明月のような宝玉のこと。

　森は言う。

「10月の初めごろに探してて、自分に合ってるなと思ったんです。そういうふうになりたいなって」

　この若者が目指しているのは、夜空にきらめく星々の真ん中で、ひときわ大きく、明るい光を放つ月なのだ。言葉を見つけたのが“ベイスターズ”に指名される前のことだったと聞くと、両者の出会いは運命的なものに思えてくる。

　横浜スタジアムに明月の輝く夜は来るか。すべては、これからに懸かっている。

（取材協力：横浜DeNAベイスターズ）