世界を驚かせた全日本の19歳、西田有志 「低い前評判をすべてひっくり返したい」

田中夕子

自身にとって初めてのW杯は「楽しみしかない」

初めてのW杯は「楽しみしかない」と言い切る。先輩からもさまざまな刺激を受けているという 【坂本清】

――初めてのW杯は西田選手にとってどんな位置付けになると思いますか? 飛躍の大会? それともスタートの大会?

 どの方向に跳ぶか全く分からないですけれど、飛躍したいです。自分、こう見えてこういう大きな大会を迎える時は、一番最悪の状態を考えるんです。自分も結果が出せなくて、チームももしダメだったら、もう次は代表に呼ばれない可能性もないとはいえない。考えられる最悪を想定します。ただ、そう言うと、ものすごくネガティブな人間っぽいですけれどそうではなくて(笑)。想定する最悪より落ちること、これより最低はないんだ、と思えば、いろいろなことが学びや経験として得られる。

 うまくいかなかったらどうしよう、負けたらどうしようではなく、たとえ負けたとしてももうこれ以上落ちることはない、と思って気持ちに整理をつけて次に向かう。そうやって積み重ねることが成長につながると思うし、実際、4年前はまだ中学生で、自分がワクワクしながら見ていたこんなデカイ大会に出られるなんて、ドラマみたいですよね。だから自分と同じようにワクワクを与えたいし、そのためには練習で求めることも高くなる。それをクリアするためにはもっとレベルアップしないといけないし、とにかくやるしかないと思っています。

――世界を相手に戦うことで、プレーや意識の変化はありましたか?

 高校生の頃は1本ミスをしても、やっちゃったと思うくらいで、大きなことだとは思っていませんでした。でも世界を相手に戦う場では1本のミスがシビアで、命取りになるし、その1本であっという間に流れが変わる。高校生の頃のように「今はミスしたけれど、次に俺が決めればいいやろ」という発想は一瞬でなくなりましたね。この1点が決まったら一気に流れが来る、決まらなかったら終わる、って。それぐらいシビアに考えるし、その考え方は代表に行かなければわからなかったことだと思います。

――W杯をきっかけに、また大きな変化があるかもしれない?

 そうですね。これからどうなるか、本当に分からないし、だからこそ自分は楽しみです。今は来年の五輪に向けて進むだけだし、でもそこで終わりではなく、その後どうなるかすごく楽しみです。日本では、自分の年齢で代表に入ってプレーすると「若い」と言われますが、親善試合で戦った中国など、各国に自分と同世代の選手はたくさんいます。日本ではもちろん、世界でも同世代には負けていられないと思うし、そういう存在がいるから、自分ももっと成長できると思います。

――バレーボールW杯期間中にはラグビーW杯も開催中です。他競技を意識することもありますか?

 めちゃくちゃあります。いろいろなスポーツの大会がある中で、いかにバレーボールを見てもらうか、関心を持ってもらえるかと考えたら思い切ったことをしないと、って思いますよね。だって、サッカーなんて僕より年下の久保(建英)選手がスペインでプレーして、スペイン語で記者の質問に答えているわけです。あの姿を見て刺激されないわけがない。自分もいつか久保選手のように海外のビッグクラブでプレーしてみたい、そこでレギュラーになって優勝して、日本中を驚かせたい、って思いますよ。そのレベルに達するためにも、とにかく今ここからだなと思います。

――柳田選手や石川選手は「危機感」も口にされています。西田選手は危機感を抱くことはありますか?

 自分はまだ楽しみしかないです。もちろんいいイメージの中に悪いイメージを持つこともありますが、ただボケーっと過ごしていたら1日が過ぎていた高校時代と比べたら、こんなに今、同じ1日で充実感を感じられるなんて信じられない。楽しくて仕方ないです。しかも自分が高校時代にも真似していた祐希さんや、清水(邦広)さん。そういう憧れの人たちと今、一緒に日の丸をつけて戦えるわけですから。

 特に、清水さんは同じ左利きで、本当に自分の憧れで尊敬する人で、今実際に話をするようになってもいろいろと学ぶことしかありません。自分も清水さんぐらいのレベルに高めていきたいし、自分に足りないことは明確になっているので、課題がクリアできればもっとレベルアップできる。そう考えると、やっぱり楽しみしかありません。

――西田選手にとっては初めてのW杯、日本代表としてどんなプレーを見せて、どんな大会にしたいですか?

 日本代表としてコートに立たせてもらって、日本を背負って戦っている分、見られる数も期待される数も多くなる。それを背負う覚悟は持って臨んでいるつもりです。自分は注目されたい人間なのでそれもうれしいですが(笑)。目標を達成できれば歓声を浴びられるけれど、反対に達成できなければ罵声を浴びることもある。

 それももちろん必要だと思いますし、すごいねだけではなくて、「西田、何やってんだよ」と言われることだってあって当然です。見ている方の視点もさまざまで、いろいろな考え方があると思うので、そういうものも全部背負いながら、でも最後はそういう人たち全員に「すごい」と思わせたい。前評判は低いのかもしれないけれど、それもすべて引っくり返したいです。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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