原辰徳の勇気が巨人の危機を救った 桜井先発が象徴する「脱・固定観念」

鷲田康

桜井の好投が交流戦の好成績を呼ぶ

桜井(写真右)を先発抜てきした6月6日の楽天戦で勝利。交流戦を3位で乗り切り、ペナント制覇につなげた 【写真は共同】

 6月6日、東北楽天との交流戦。先発した桜井は6回3分の2、打者27人に対して3安打1失点という投球内容で勝ち投手となった。

 この試合では女房役の炭谷銀仁朗捕手の好リードもあり、中継ぎではなかなか使い切れなかった緩いカーブを有効に使いながら、緩急をつけたピッチングで新境地を開いた。その後はローテーションの一角を守って優勝まで16試合に先発、7勝4敗で防御率3.42という結果を残したのである。

 そしてこの桜井の好投で楽天戦を2勝1敗と勝ち越した巨人は、交流戦は快調なペースでパ・リーグ球団に勝ち越していき、再び“勝つ感覚”を取り戻すことに成功した。

「実は交流戦の成績というのは、ペナントレースをにらんでも大きな比重を占める。優勝するためには、交流戦を勝ち越すことが絶対的な条件で、逆に交流戦で負け越したチームはペナントレースでも脱落していっています。そういう傾向ははっきりある」

 原が語るように、巨人もペナントレースで負け続けたこの4年間の交流戦は、2016年の9勝9敗を除いてすべて負け越し。逆にリーグ3連覇を果たした2013年からの3年間はすべて勝ち越し、2014年には優勝もしている。今年は最後の最後に福岡ソフトバンクに敗れて、優勝を逃したが、最終成績は11勝7敗でソフトバンク、オリックスに続く3位。セ・リーグ6球団の中では最上位の成績で乗り切り、結果的にはそれがペナント奪回への一つのキーストンとなるわけである。

 先発投手陣が崩壊しかけた5月から6月。そのピンチを救い、交流戦の勝ち越しに勢いをつけたのが桜井の抜てき人事だったのは紛れも無い事実だ。実は優勝争いの最中、首位攻防戦と言われた9月10日の横浜DeNA戦にライアン・クック投手を先発させて、“ブルペンデー”で白星を奪ったのも原の発案だった。

 負け続けた組織の変革にまず必要なのは、固定観念を捨て去ること、そしてその上で新たなチャレンジをする勇気である。

 原辰徳による巨人再生の道も、まずその勇気から始まっている。

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著者プロフィール

1957年埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、報知新聞社入社。91年オフから巨人キャップとして93年の長嶋監督復帰、松井秀喜の入団などを取材。2003年に独立。日米を問わず野球の面白さを現場から伝え続け、雑誌、新聞で活躍。著書に『ホームラン術』『松井秀喜の言葉』『10・8 巨人VS.中日 史上最高の決戦』『長嶋茂雄 最後の日。1974.10.14』などがある。

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