“箱根4連覇を支えた”駒澤大の夜ごはん 箱根駅伝ランナーを強くする食の秘訣 第2回

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【写真:アフロスポーツ】

 夫である大八木弘明監督が1995年に駒澤大陸上競技部のコーチに就任したことを機に、寮の食事を提供し始めて、今年で25年が経過した。長距離ランナーに多い貧血を予防したり、疲労回復を促進するため、栄養バランスをとることはもちろん、家庭的で温もりのある料理を提供することにこだわってきた。

「箱根駅伝ランナーを強くする食の秘訣」第2回は、2002年から2005年の4連覇を含む、計6度の箱根駅伝総合優勝を食事面で支えてきた栄養士の大八木京子さんが作る、駒澤大の夜ごはんを紹介します。“駒澤大のお母さん”が栄養サポートにかける思いは、すべての駅伝ファン、陸上ファン必読です。

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こだわりは「バランスを考え、家庭的であること」

 夕日が駒澤大の道環寮を照らす頃、その日の練習を終えた選手が徐々に帰宅。玄関の右手にある食堂から、栄養士の大八木さんが腕によりをかけて作る夕食の香りが漂ってきます。18時30分頃になると、選手が食堂に集合。お待ちかねの夜ごはんの時間が始まります。

 夕食は、15時頃から作り始めます。基本的に大八木さん自らメニューを作り、調理までこなしますが、女子マネージャーの授業がないときは、手伝ってもらっています。

女子マネージャーにお手本を見せる大八木京子さん 【撮影:白石永(スリーライト)】

「夕食作りで意識していることは、バランス良く、色々な食材を使うことです。例えば肉であれば豚肉、鶏肉、牛肉をまんべんなく使います。部位は脂身が多いところは避けています。牛肉はなるべく鉄分の多い赤身を使うことで、脂質を摂りすぎないように気を付けています」

 主菜には肉料理が並ぶことが多く、学生にはハンバーグや豚キムチが人気です。魚は副菜に使うことは多いですが、主菜としては週に1度くらいになるそうです。調理法は、シンプルに焼いたり、煮ることが多いと大八木さんは言います。

配膳は1年生も手伝っている(当番制) 【撮影:白石永(スリーライト)】

「野菜は普段、あまり意識して食べないと思うので、たくさん出すようにしています。サラダにしたり、ボイルにしたり、調理法もさまざまです。果物も毎食提供します。オレンジやグレープフルーツを出すことが多いですね」

 味付けで意識していることは朝食同様、「バランスを考え、家庭的であること」。長距離ランナーに多い貧血を予防するために、鉄分の多い食材を使ったり、その日の練習メニューに応じて疲労回復に効果があるとされる食材を選ぶなどの配慮は当然行いますが、大八木さんは「これまで食べてきたような家庭料理を提供して、選手にもご家族にも安心してもらいたい」と考えています。

駒澤大の夜ごはんを紹介

 駒澤大陸上競技部の夜ごはんを、メニュー作りのポイントとともに紹介していきます。大八木さんの言うように、家庭的な温もりを感じるメニューが並びます。

【提供:駒澤大】

【2019年8月2日(金)の夕食メニュー】
主食・主菜:カレーライス
副菜1:ささみフライ
副菜2:春巻き
副菜3:野菜サラダ
副菜4:ひじきの煮物
汁物:水餃子のスープ
果物:フルーツポンチ
100%ジュース
差し入れのドーナツ

【メニュー作りのポイント】
「暑くて食欲が低下するときでも、カレーの日はご飯もたくさん食べてくれます(食べ過ぎ注意ですが)。選手達は卵やチーズをトッピングして、カルシウムやボリュームをアップさせています。カレーの日もサラダなどの副菜を添えることで、栄養バランスが偏らないようにしています。ひじきの煮物は鉄分が摂れるので献立にはよく取り入れています。アスリートには鉄分は不可欠です。夏は特に汗とともに失われてしまうので普段から意識して少しずつでも摂取したいものです」

【提供:駒澤大】

【2019年8月5日(月)の夕食メニュー】
主食:ご飯
主菜:豚肉の焼肉風と野菜ソテー
副菜1:中華サラダ
副菜2:水餃子
副菜3:冷奴のとろろオクラかけ
果物:スイカ
汁物:豆腐とモロヘイヤの吸い物
差し入れのお菓子

【メニュー作りのポイント】
「暑い日が続いているので、疲労回復効果のある豚肉を焼肉風にして野菜ソテーを添えました。水餃子、冷奴は食欲が落ちるときでも食べやすく、タンパク質も摂取できます。山芋のとろろとオクラで弱った胃腸も強化します。スイカはOBの方からの差し入れです。ハードなトレーニング後には水分たっぷりのスイカはありがたいフルーツです。カリウムも豊富です。塩を振って食べれば塩分補給になるし、甘味も増してよりおいしくなります!」

【提供:駒澤大】

【2019年8月6日(火)の夕食メニュー】
主食:ご飯
主菜:ハンバーグラタトゥイユとマカロニ添え
副菜1:チキンサラダ
副菜2:さつまいもサラダ
副菜3:刻み昆布と根菜の煮物
汁物:野菜スープ
果物:オレンジ

【メニュー作りのポイント】
「ハンバーグは人気メニューですが、野菜をたっぷり添えることを心がけています。逆にサラダは野菜ばかりでなく鶏肉やハムを加えてたんぱく質も摂取できるようにしました。昆布やひじき、ワカメなどの海藻類もミネラルや食物繊維が豊富なのでメニューによく取り入れます。オレンジは糖質、ビタミンCが豊富なので疲労回復にはベストなフルーツです」

“お母さん”だからこそできるサポートを

 こうして、選手46名分の夕食の準備が終わり、後片付けや翌日の仕込みなどをこなすと、21時を回ります。朝食の調理は、道環寮の近所の方にも手伝ってもらっていますが、朝・夕食メニュー作りと夕食の調理は25年もの間、大八木さんが一手に担い続けてきました。「私の子どもが小さかった頃は、とにかく大変でした」。大八木さんは述懐します。

【駒澤大出身の大八木さん。夕食の調理後に話を聞かせてくれた】

「近年は食事を専門業者に委託する大学もあり、正直、私でいいのかと悩んだこともあります。けど、駒澤大学はこのスタイルを貫いてきたので、これからも私が一生懸命作り続けていきたいし、それが私の役割だと思っています。また、陸上競技部で運営しているインスタグラムに食事の写真を時々アップしているのですが、それを見た選手のご家族が喜んでくれることも、私ががんばる原動力となっています」

「特別なことはしていませんよ」と大八木さんは謙遜しますが、体調を崩した選手にはおかゆを提供したり、大会前には選手のリクエストに応じたり、“お母さん”だからこそできる献身的なサポートに、大八木監督も「感謝しても感謝しきれない」(大八木弘明『駅伝・駒澤大はなぜ、あの声でスイッチが入るのか』ベースボール・マガジン社)と、最大限の謝意を伝えます。これからも、大八木さんだからこそ作れる自慢の家庭料理で、駒澤大の選手の食を支え続けます。

「しっかり食べて、力強く走ってほしい」大八木さんはそう願う 【撮影:白石永(スリーライト)】

取材・文:柴山高宏(スリーライト)

【参考文献】
大八木弘明『駅伝・駒澤大はなぜ、あの声でスイッチが入るのか』ベースボール・マガジン社
読売新聞運動部『増補版 箱根駅伝 世界へ駆ける夢』中央公論新社
『月間陸上競技 2019年6月号』陸上競技社
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著者プロフィール

習慣的にスポーツをしている人やスポーツを始めようと思っている20代後半から40代前半のビジネスパーソンをメインターゲットに、スポーツを“気軽に、楽しく、続ける”ためのきっかけづくりとなる、魅力的なコンテンツを提供していきます。

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