大谷の非凡さ示す「ありえない」打球角度 夏場の爆発へ、カギは配球への対応

丹羽政善
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提供:日本航空

“らしさ”を欠く後半戦の大谷

今年も7月に入ってブレーキがかかってしまった大谷。「打球角度」に着目して、復調のきっかけを探っていく 【Getty Images】

 去年は、この地が起点となった。

 昨年7月、大谷翔平は打率.203(64打数13安打)、3本塁打、23三振と低迷。しかし、8月3日のクリーブランド遠征初戦で5打数4安打、2本塁打、3打点、3得点と打ちまくると、その勢いをシーズン終了まで維持。その試合も含めたそれ以降の47試合で打率.320、13本塁打、出塁率.395、長打率.653、OPS(長打率+出塁率)1.048をマークし、新人王を手繰り寄せた。

 奇しくも今年も、エンゼルスは8月2日からクリーブランドへ遠征。しかもシリーズの初戦の先発マウンドには、大谷が昨年の対戦で2本塁打を放ったマイク・クレビンジャーが上がっている。

 さすがに結果まで同じになることはなかったが、翌日の試合で大谷は、昨季を上回る今季24度目のマルチ安打を記録するなど、同地での相性の良さをうかがわせた。

 ところで、昨年ほどではないにしても、今年も7月に入って、大谷にブレーキがかかっている。特に後半戦に入ってからの大谷は、“らしさ”を欠く。

 7月12日から30日までの18試合は、打率.254(59打数15安打)、1本塁打、長打率.356、OPS.722。何より、大谷の調子のバロメーターでもある打球角度が、それまでと比べて改善されているにも関わらず、結果が伴わない。

「結果的に上がってる打球に関しては比較的ヒットになったり、ホームランになってる率が高いので、そこ次第」と話したのは、なかなか打球が上がらなかった6月1日のこと。

 前半の平均打球角度はわずか3.0度だったが、くだんの18試合の平均打球角度は13.7度。これは22本塁打をマークした昨年の12.3度よりも大きい。それは望んだはずの数字だったのに、結果に結びつかない。

前半戦は打球角度の割に本塁打量産

 いったい、何が噛み合わないのか。

 そこへ話を進める前に、あらためて3.0度という前半の打球平均角度について触れておくと、そもそもこの数字が異常だ。この数値で前半に14本塁打も打てたこと自体、信じがたい。

 もちろん、大谷の打球初速はリーグでもトップレベル。昨季は平均92.6マイルでリーグ上位4%に入っていた。今季は前半を終え、平均93.5マイルでリーグ上位1%だった(いずれもbaseball savant調べ)。

 かといって、ゴロが柵を越えることはない。打球が本塁打になるとしたら、いくら打球初速が速くてもある程度の角度を必要とするが、平均3.0度が、どう本塁打量産を導くのか。

大谷の前半戦の打球角度は「平均3.0度」。いったいどのように14本塁打を放ったのか 【Getty Images】

 もう少しデータを細分化し、復帰したもののなかなか結果が出なかった5月7日から6月2日までの22試合と4日から7月7日までの31試合に分けて、数字をたどってみる。後者の日程では11本塁打を放っており、この期間は打球角度が改善されているかもしれない。であれば、不思議はない。

 まず、前者の平均打球角度を調べると2.8度だった。これで3本塁打は、さもありなん、という数字である。では、11本塁打をマークした後者はどうかといえば、3.2度。最初の22試合とほとんど変わらなかった。

 これで、どうやって11本もの柵越えを? 

 ありえない数字だが、そこからさらにデータをたどると、大谷の非凡さが浮かび上がった。
 以下に、2つの期間を打球の内訳を比較した。

【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 違いについて触れる前に説明しておくと、フライとラインドライブの境界線は曖昧で本来分類は難しいが、大リーグ公式ページ「MLB.COM」の基準にならうなら、こうなる。

ゴロ=10度未満
ラインドライブ=10度以上〜25度未満
フライボール=25度以上〜50度未満
ポップアップ=50度以上

 で、先程の2つの数字を比べると、6月4日以降、ゴロの比率は増えているものの、ラインドライブの割合が減り、フライが増えていることが分かる。ここに一つポジティブな変化があった。なぜなら大谷自身、そこを意識してきたからである。

 一、二塁間へのゴロが多かった5月28日のこと。大谷は打球が上がらないことについて、「(ボールの)上を叩いている感じなので、ラインドライブも多いですし、ゴロも多い」とその理由を説明した。

 ラインドライブでさえ、思い描いた打球の軌道とは異なる。

「ポイントがちょっと前にある。本来ならもう一つ遅らせてバットを下に入れられれば、もっと打球を上げられるんですけど、それが自分の中で前になってしまっている」

 この頃、打撃練習でも右足の上げ方を変えるなどして、タイミングを試行錯誤していた。打球に角度をつけるために。

 では、フライが増えたことでどうなったかだが、それは分かりやすく結果に表れていた。

 なんと6月4日以降の13本のフライのうち9本が本塁打だった。その確率69.2%。増えた分はきっちり柵の向こう側に運んだ。すでに、「結果的に上がってる打球に関しては比較的ヒットになったり、ホームランになってる率が高いので、そこ次第」というコメントを紹介したが、その通りとなったのだ。

 ここでようやく冒頭の話に戻すと、後半の13.7度という平均打球角度は、劇的な本塁打増をもたらしていても不思議ではない。その数字だけを切り取れば、フライ増が想定できる。

 だが、なぜ、そうなっていないのか。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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