日本代表で輝く松島幸太朗の“変幻自在” 「全部万能にできるようにしたい」

斉藤健仁

2トライの活躍「スペースを突けたのが良かった」

後半15分には、ラグビーボールでは難しいドリブルからトライを決めた 【斉藤健仁】

 まず前半19分、スクラムから左に展開し、ラックを形成。SH茂野海人は右に走り込んだ味方にパスをすると見せかけて、FLピーター・ラブスカフニの背中に隠れるようにしてクロスに走り込んで来た松島にパス、パスを受けた松島はそのまま、隙を突いて中央にグラウンディング。松島は「サインプレーです。FWが安定したスクラムでボールを出してくれた。分析通り(フィジー代表の守備は)セットするのが遅かった。しっかり空いているスペースを突けたのが良かった」と破顔した。

 前半23分のトライも、ラインアウトからロングスローの受け手となりゲインし、左右に振って最後はCTBラファエレ ティモシーのトライをアシストした。さらに試合が膠着した後半15分、ラファエレが相手にタックルして、こぼれたボールを足にかけて、うまくドリブルでコントロールし、自らボールを押さえてトライを挙げた。

 松島は「ディフェンスでしっかり上がるところを最後まで意識した。相手がプレッシャーを受けてミスしたのを取れたので、しっかりフィニッシュできたのが良かった」、また「宮崎ではきつくなった時の行動がキーポイントだったので、今日も暑い時、疲れていたと思うが、その成果が出た」と胸を張った。このシーンは、おそらくフィジー代表のアタックラインの方が枚数は多く、もし展開されたらピンチになっていたはずだ。人数が少なくても、疲れがたまってくる後半の中盤でも、組織としてしっかり前に上がったことが功を奏した。

ブラウンコーチが語る「FB2人」の効果

攻守のさまざまな局面で、多彩な能力を発揮した松島幸太朗 【斉藤健仁】

 また相手のキックに対するディフェンスは、トニー・ブラウンコーチが「マツ(松島)をWTBで使うと、FBが2人、WTBが1人の陣形が取れる。現代ラグビー、W杯ではハイボールを処理してカウンターで仕掛けることが大事。トゥポウもマツもそこを得意としている」と期待していたように、相手のキックに対して下がったときには、松島はWTBというよりFBの位置に入ることが多かった。

 相手のSHからのボックスキックに対してはハイボールに強いFBウィリアム・トゥポウがライン際に位置し、松島は中央の広いエリアをカバーしていた。いずれにせよ2人のFBで後方を守るという陣形であり、松島にとってはまったく問題なかった。またタックルでも身体を張り、フィジー代表対策の一つとしていたパスコースに入って相手のパスをインターセプトするシーンもあり、ターンオーバーになったらすぐに戻る意識も高かった。

 試合を振り返って松島は「合宿でコミュニケーションが取れていたので、やりにくさはまったくなかった。自然と今の役割の部分ですっと入れた」と言い、やはり15番で出たいのかと聞かれると「WTB、FB以外でもしっかり頭の中に入れて、全部万能にできるようにしたい」と、どのポジションで出場しても自分の役割を果たすつもりだ。

W杯へ闘志「プール戦を全勝するという気持ちで」

W杯に向けて「決勝トーナメントに行けるように」と語る 【斉藤健仁】

 ジョセフHCは松島のプレーぶりを聞かれて、「松島に関して言えば、しっかりとプラスとマイナスを秤にかけて選択します。自分の力を最大限に発揮できることがすべてです。後半の彼のパフォーマンスを見るとわかると思いますが宮崎合宿での成果が表れてきた」と高く評価した。

 また日本代表は過去、テストマッチシリーズの初戦やPNC初戦では苦戦することが多く、また試合の入りもあまり良くないことも多かった。ただこの試合に関しては違った。
 松島は「リーダー陣でいつも入りが悪いと話していたが、いいスタートダッシュができた。意識のところでみんな変わった。この1週間、しっかり最初から自分たちの役割を果たそうとやっていた。今までやってきたことが試合に出たのかな」と個人だけでなくチームの成長も実感していた。

 チームで2番目に若い22歳で出場した前回のW杯は、4試合にWTBとして出場したが、チームを引っ張る存在ではなかった。だが、2017年度にはトップリーグの年間MVPを受賞し名実ともに日本を代表する選手へと進化を遂げて、キャプテンのFLリーチ マイケル以下9人いるリーダー陣の一人としてチーム内の存在感も大きく増している。

 2度目、そして自国開催でのW杯に向けて26歳となった松島は「1日無駄にすると損するので、そうしないためにも自分ができることを自分から積極的にやっていきたい。そしてしっかり決勝トーナメントに行けるように、プール戦を全勝するという気持ちでやりたい」。決して雄弁な選手ではないが、その発する言葉ひとつひとつに覚悟と責任を感じる。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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