東京2020での取り組みをレガシーに 街づくり・持続可能性委員会 崎田裕子さんに聞く(後編)

高樹ミナ

モーリーさんと崎田裕子さんとの対談後編。持続可能性について話を深めていく 【写真:築田純】

 開催まで500日を切った東京2020大会。“世界的スポーツの祭典”が近づくにつれ、東京の街、そして日本全体も徐々に変わっていく。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、「アクション&レガシープラン」として、オリンピック・パラリンピックを東京で行われる国際的なスポーツ大会としてだけでなく、2020年以降も日本や世界全体へ様々な分野でポジティブな“レガシー(遺産)”を残す大会として“アクション(活動)”していく計画を立てている。

 タレント・ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんが、「アクション&レガシープラン」のキーパーソンに直撃レポートする今回の企画。本稿では、アクション&レガシープラン策定の議論に携わった、街づくり・持続可能性委員会委員の崎田裕子さんとの対談後編をお届けする。

地方の参画・協働を促すプロジェクト

――2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機とする持続可能な社会の実現において、東京だけでなく地方に向けた取り組みについてもお聞かせください。

崎田裕子さん(以下、崎田) 地方の皆さんと協働する取り組みも多々ありまして、例えば「日本の木材活用リレー  〜みんなで作る選手村ビレッジプラザ〜」と題した参画プロジェクトがあります。木材をご提供いただける地方自治体を募り、選手や大会関係者、選手のファミリーなどが利用する仮設のビレッジプラザを建て、大会後、解体した木材をお返しして、各自治体で公共施設などの建築に活用してもらいます。ご協力いただく自治体は公募ですでに決まり、北海道から九州まで63自治体が手を挙げてくださいました。こうした取り組みには全国の人たちが参加できますので、オリンピック・パラリンピックの盛り上がりを日本中で共有していただけると思います。

モーリー・ロバートソン(以下、モーリー) 自分たちの暮らす町と選手村がリンクしてるなんて、とても響くと思います。当事者感が大事なんですよね。木材と聞いて思い出したのですが、地方に多い、いわゆるシャッター商店街を取材したことがあって、廃業したスポーツ洋品店や婦人服店から木材の梁を譲り受け、それを活用して古民家風の宿を作ったところ、外国人の宿泊客が殺到したという事例がありました。1泊3,000〜4,000円で泊まれる二段ベッドのこぢんまりとした宿なのですが、こういう日本人にとっては古臭いアトラクションが外国人観光客、とりわけ若い世代には自分たちの知らない新しい伝統やノウハウになるわけですよね。大変な価値だと思いました。

崎田 日本でも若い世代の間で自分たちの国の文化を見直そうという意識や動きが結構盛んで、先日も2020年東京大会の参画プログラムとして「風呂敷を使ってみよう」という講座を、新宿にある環境と文化の複合施設で開いたところ、若い方が大勢集まってくれました。風呂敷をバッグのように使えることなどを知って皆さん驚き、「風呂敷って、こんなに活用できるんだ!」と盛り上がっていましたし、講座の企画運営も学生さんや若い方々にお願いしたところ、「最近、伝統文化に凝っちゃいまして」とか「次は味噌を作ってみたい」など予想以上の反響でした。

モーリー 若い世代がそういう気持ちになってくれると、2020年東京オリンピック・パラリンピックの時にも「日本のことを語ろう、伝えよう」と外国人との交流に積極的になるかもしれませんね。今のお話を伺って、また思いついちゃったんですけれど、よろしいですか?

観光資源をどう生かすか

奥に見えるのがラムサール条約湿地に登録された葛西臨海公園。手前では2020年に向け、カヌー・スラローム会場の建設が進められている(写真は2018年8月) 【共同】

モーリー 日本に来る外国人観光客が相変わらず増えていて、特に京都などは飽和状態です。そんな中、京都の中心部から電車で20分くらいの「明智光秀の里」という場所に古民家ホテルを開いた米国人がいます。近くにフランス料理店があって、シェフがケータリングしてくれるので、美味しいフレンチがいただけるのですが、比較的お値段も手頃で外国人観光客にも人気です。このケースのように福井県や富山県、関東なら茨城県や山梨県などにも外国人が好む日本の伝統文化とか田舎の風景がありますから、その魅力をもっとうまく打ち出せるといいなと思うのです。

崎田 政府が地方創生の旗を振ってくれていますけれども、ますます外国人観光客が増える2020年東京大会に向け、「自分の住む町はこんなにいい所だったんだ」と改めて気づき、地域社会が元気になる取り組みが盛んになっていくといいですよね。

モーリー 実は私、寒ブリで有名な富山県氷見市の観光大使をやっているんです。その名も「氷見市きときと魚大使」。

崎田 それは存じませんでした。今、富山県とか石川県、福井県の皆さん、「自分たちの町の良さを伝えたい」という熱意がものすごいですよね。特においしい食材をしっかり食べきって欲しいという関心が高いですね。

モーリー そうなんです。あの辺りは本当に景色もいいし食べ物も美味しいんですけれども、アクセスがもうひとつなんです。かつては太平洋側を表日本と言うのに対し、日本海側は裏日本なんて呼ばれ方をして。確かに人口減少で過疎化は進んでいるかもしれませんが、リソースはある。ただ人手が少ないこともあり、目の前にある観光資源を生かしきれていないというのはあるかと思います。

崎田 その観点で言いますと、自然が少ないと思われている東京でも江戸川区の葛西海浜公園にカモ類などの野鳥がたくさんやって来る水辺があって、数年前からラムサール条約湿地に登録しようとNGOが提案したり、東京都と国が話を進めていました。そして昨年ついに登録が叶ったんです。ラムサール条約湿地は正式名称を「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」といって、1971年にイランのラムサールという都市で条約が採択されたので通称ラムサール条約湿地と呼ばれています。

モーリー おぉ、素晴らしい!

崎田 あと東京湾も国や東京都、組織委員会が協力して水質対策を進めていて、水質がどんどん良くなっています。オリンピック・パラリンピックのための「持続可能性に配慮した運営計画」には大気・水・緑・生物多様性などを高め、自然共生都市の実現を目指そうという目標がありますが、まずは東京自体が自然共生都市になることで、その精神が日本全体に広がっていくことをイメージしています。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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