永井謙佑×村上茉愛with石川直宏 サッカーと体操、それぞれの五輪

戸塚啓

石川「ミスを引きずるのが一番良くない」

「ミスを引きずるのが一番良くない」と石川。切り替えの重要性を語った 【撮影:スエイシナオヨシ】

──サッカーは団体競技、体操は団体と個人がありますが。

村上 団体戦は緊張します。若い頃は自分ができていればいいと思っていましたけど、今はチームのためには失敗できません。

永井 迷惑をかけられない?

村上 はい。個人戦と団体戦では気持ちが違います。試合としては団体戦の方が楽しいですが、緊張感が倍になります。個人戦は失敗をしても自分の責任なので、自分がまた頑張ればいいって。

石川 そこは割り切れるんですね。

村上 でも、団体戦でミスをして、もしメダルを獲れなかったりしたら、すごく申し訳ない。しばらく引きずると思います。

石川 大きなミスがあると、他の選手が頑張っても挽回しきれないものですか?

村上 採点競技なので難しいですね。失敗すると1.0の減点で、0.1ずつ稼ぐとなると10回になります。5人エントリーで3人しか演技はしないので、1人失敗すると……。

永井 プレッシャーはすごいでしょうね。

村上 でも、永井さんはFWですから、点を決めなきゃいけないプレッシャーをすごく感じるんじゃないですか?

永井 プレッシャーがないとは言いませんが、僕らは減点されるわけじゃない。1本目のシュートを外しても次に決めればいいんだ、という作業の繰り返しですね。ネガティブな思考になるとシュート以外のプレーにも伝染して、チームに迷惑をかけることになってしまう。「次は決めるからどんどんパスを出してくれ」っていう前向きなスタンスでやっています。

村上 それは昔からですか?

永井 FWなのでシュートを打つシーンはたくさんあるので。プロのキャリアをスタートした名古屋グランパスでいろいろな経験をして、17年に移籍したFC東京でもさらに経験を積んで。プレーを重ねていくにつれて、そういうメンタルになっていきました。

石川 FWがミスを恐れていたら、相手に脅威を与えられない。ミスを引きずるのが一番良くない。謙佑は第4節の名古屋戦で決勝点を決めたけれど、前半開始早々にきれいなトラップからシュートを打った場面は外してしまった。それを引きずらずに試合をやりながら切り替えて、切り替えて、後半に決めてくれたね。

村上 個人戦では気持ちの切り替えはすぐにできます。私は先生やチームメートと普通に会話をしながら試合をするのが好きで。観客席を見たりもします。テレビで応援してくれる友達から、「演技が終わったら私たちに分かるポーズをして」って言われたり。

石川 ああ、分かるなあ(笑)。

村上 決して遊んでいるわけではないですけれど、いい意味でリラックスして。

永井 味の素スタジアムでも、観客の人たちはよく見えます。試合前に整列をしているときには、自分の家族に手を振ったりしますね。

村上 味の素スタジアムが満員になったら、ものすごい雰囲気なのでしょうね。

石川 エネルギーがブアーッと沸き上がるような感じですかね。ボールを持った選手には、ホームもアウェーも関係なく観衆の視線が集中して、ゴールが入ったらもう、それは。

永井 ゴールの瞬間はすごいです。たまらないです。ものすごい一体感ですよ。

石川 僕の場合は点を取ると頭が真っ白になって、気が付いたら疾走していた。

村上 すごい!

永井 一昨日の名古屋戦でゴールしたとき、GKと交錯して胸を思いきり打ったんですよ。痛かったけど興奮しているから、全然気にならなかった。で、後からううっ、痛いって(笑)。

──サッカーのゴールのような瞬間は、体操にもありますか?

村上 男子は鉄棒が、女子は床が花形種目だと思うのですが、海外の選手はお互いに応援し合うので、盛り上がりはすごくあって。リオ五輪の鉄棒で内村航平さんが着地を決めたときは、体操ってこんなに盛り上がるんだって、私も鳥肌が立ちました。五輪のチャンピオンってすごい!と思いました。

永井「FC東京でタイトルを獲りたい」

「FC東京でタイトルを獲りたい」と永井。チームは第4節終了時点で首位に立っている 【撮影:スエイシナオヨシ】

──村上選手も17年の世界選手権で金メダルを獲得しました。

村上 自分をこんなに見られているんだと、初めて思いました。どの試合でもガッツポーズはしますが、こんなにうれしいガッツポーズはない、と思うぐらいでした。他の選手の演技も観られないぐらいうれしかったです。

石川 世界一というのはどんな景色ですか? 僕たちには想像することも難しいんですが。

村上 金メダルを獲った直後は「世界一だ」と思ったのですが、世界一の選手を追いかけてひたすら練習してきて、いざ自分が世界一になると、立場が変わったことを自覚しました。「次の世界選手権まで、周りの選手は私を追いかけて練習してくる。ここからまた頑張らなきゃ」と思いました。

永井 ロンドン五輪でベスト4に終わったとき、銅メダルとの差を強く感じました。3位と4位で順位はひとつしか違わなくても、そこには大きな開きがあるんだ、と。

──今シーズンのFC東京は開幕から好調です。4節終了時点の順位は、2015年4月以来の首位となっています。永井選手も2トップの一角として、相手に脅威を与えていますね。

永井 FC東京でタイトルを獲りたいと、常に思っています。今年はそれを言葉にしていて、それがいまこうやって良い雰囲気でできている。ちょっとずつでも変わってきているのかな、と思います。言葉にすることでプレッシャーも責任も生まれるけれど、それよりもみんなが同じ意識を持つことにつながることの方が大きい。長谷川健太監督とスタッフ、選手の想いが大きな矢印になっているので、今後も継続してやっていきたいですね。FWで結果を残せる自信はありますし、そのためにFC東京へ移籍してきた。チームの勝利に貢献するために、これからも“得点”にこだわってやっていきたいですね。

──4月には体操W杯が開催されます。村上選手は出場しませんが、見どころを教えていただけますか。

村上 自分は昨年のW杯で優勝しているのですが、男子も女子も世界のトップレベルの選手が来日して、日本からも男子の白井健三選手や女子の寺本明日香選手たちが出場します。男子だけではなく女子も強くなっていることを、ぜひ知っていただけたらありがたいです。

石川 W杯は4月7日ですよね? FC東京のJ1リーグは前日の6日だから、ぜひ観に行きたいですね。

永井 僕も! 村上さんのお話を聞いて、生で体操を見たいと思いました。練習のスケジュールが重ならなければ!

村上 私自身は4月末に行われる高崎での全日本選手権で成績を残せば、武蔵野の森総合スポーツプラザで5月に開催されるNHK杯に出場します。今年は4連覇を目指して頑張ります。昨年の世界選手権が終わったあとに教育実習があったので、一緒に戦う選手の演技をしばらく見ることができていないんですよね。なので、どんな感じになるのかがちょっと分からないのですが、4月のW杯での選手の演技をしっかり研究して戦っていけたら。自分自身の調子は悪くないので、やることをやれれば、きちんと結果はついてくると思います。まずは日本でトップにならないと、世界でメダルは獲れない。出場する選手がどういう演技をしているのかは研究するのですが、ネガティブにならずに。

永井 それも観に行きたいですね!

村上 Jリーグを生で観たことがないので、私もFC東京の試合に行ってみたいです。

石川 FC東京のゲームを、ぜひ味の素スタジアムの最高の雰囲気で楽しんでください。謙佑が走り回っていますので。

永井 はい、灰になるまで走ります!!

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著者プロフィール

1968年、神奈川県出身。法政大学第二高等学校、法政大学を経て、1991年より『週刊サッカーダイジェスト』編集者に。98年にフリーランスとなる。ワールドカッ1998年より5大会連続で取材中。『Number』(文芸春秋)、『Jリーグサッカーキング』(フロムワン)などとともに、大宮アルディージャのオフィシャルライター、J SPORTS『ドイツブンデスリーガ』などの解説としても活躍。近著に『低予算でもなぜ強い〜湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)や『金子達仁&戸塚啓 欧州サッカー解説書2015』(ぴあ)がある

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