BI砲再会 平成最後のオールスターに思う 全日・宮原によぎる新日・棚橋の面影

高木裕美
 今月19日、東京・両国国技館にて開催される「ジャイアント馬場没20年追善興行〜王者の魂〜」にアントニオ猪木が来場する。くしくも翌20日は猪木の76歳の誕生日。1960年に日本プロレスに同期入門し、タッグチーム「BI砲」として、ライバルとして、プロレス界を盛り上げた2大巨頭が「再会」を果たす歴史的瞬間を前に、両者の生き様・スタイルの違いと、2人が立ち上げた団体・影響を受けた選手について考えてみたい(文中敬称略)。

日本プロレス界の二大巨頭がその後に与えた影響は計り知れない 【撮影:山内猛】

 まず、両者の略歴を紹介すると、馬場は38年、新潟県三条市に生まれ、読売ジャイアンツに投手として入団。だが、風呂場で転倒し、左手を負傷したため、野球を断念。プロレスの祖・力道山に直訴し、60年に日プロに入団した。72年10月には全日本プロレスを旗揚げし社長に就任。還暦を超えてもリングに上がり続けたが、99年1月31日、午後4時4分、肝不全により61歳で死去。同年5月2日に東京ドームで、馬場&ザ・デストロイヤー組vs.ブルーノ・サンマルチノ&ジン・キニスキー組による「引退試合」が行われた。

 一方、猪木は43年、神奈川県横浜市に生まれ、13歳の時に家族と共にブラジルへ移住。現地で力道山にスカウトされ、60年に日プロに入門した。66年には東京プロレスを旗揚げするも3カ月で崩壊し、一旦は日プロに出戻ったが、72年3月に新日本プロレスを旗揚げした。98年4月4日、55歳の時に、東京ドームにてドン・フライを相手に引退試合を行い、当時の最高記録となる7万人を動員した。

 “世界の巨人”馬場を象徴するワードは「赤いタイツ」「王道」「アポー」、そして「馬場さん」である。全盛期は2メートルの巨体から繰り出す十六文キックや脳天唐竹割りで絶大なインパクトを与え、85年に第一線を退いてからは、前座のコミカル路線に転向。バラエティー番組やCMにも多数出演する「お茶の間の人気者」でもあった。全国の会場の売店に座ってファンサービスを実施し、弟子たちに「理想の社長像は馬場さん」と言われるほど、経営者としても優れていた。

 “燃える闘魂”猪木を象徴するワードは「赤いタオル」「ストロングスタイル」「元気ですかーっ!」、そして「スキャンダル」である。見た目も、動きも、フレーズも特徴的なため、モノマネする芸人が続出。絶大なるカリスマ性を誇る一方、「政治・女・カネ」などのスキャンダルまみれで、参議院議員を務める今なお「お騒がせ要員」である。

相互に影響を与えるカリスマの遺伝子

「鶴龍対決」は全国のプロレスファンをおおいに沸かせた 【撮影:山内猛】

 この極端なまでのカラーの違いは、両者が旗揚げしたそれぞれの団体にも影響を与えている。馬場全日本といえば「王道」「明るく、楽しく、激しく」であり、80年代はジャンボ鶴田、天龍源一郎の「鶴龍対決」、90年代は三沢光晴、川田利明、小橋健太(建太)、田上明による「四天王対決」が人気を博した。「怪物」と呼ばれ、無類の強さを誇った鶴田に対する天龍のジェラシー、「超世代」を狙った三沢らの奮闘が熱を生み、リング上の戦いを極限まで高めていった。

90年代の新日本人気を支えた闘魂三銃士 【撮影:山内猛】

 対して、猪木新日本は「対抗戦」と「動乱」だろう。76年6月26日に日本武道館で行われた猪木vs.モハメド・アリの格闘技世界一決定戦や、95年10.9東京ドームでのUWFインターナショナルとの全面戦争などは世間をアッと言わせた。また、80年代はタイガーマスク旋風や長州力vs.藤波辰巳(辰爾)の「名勝負数え歌」で人気を確立し、90年代は武藤敬司、蝶野正洋、橋本真也による同期3人の闘魂三銃士が大ブレイク。97年に蝶野が武藤らと結成した「nWo JAPAN」は一大ムーブメントを起こした。

 とはいえ、それぞれの「遺伝子」から派生した団体は両極端だ。新日本を解雇された前田日明が88年5月に旗揚げし、ニューウェーブを起こした「第2次UWF」は格闘技スタイルで、いわば猪木路線。一方、馬場の元付き人・大仁田厚が設立したFMW(89年10月)は過激なデスマッチと、真逆のベクトルである。

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著者プロフィール

静岡県沼津市出身。埼玉大学教養学部卒業後、新聞社に勤務し、プロレス&格闘技を担当。退社後、フリーライターとなる。スポーツナビではメジャーからインディー、デスマッチからお笑いまで幅広くプロレス団体を取材し、 年間で約100大会を観戦している 。最も深く影響を受けたのは、 1990年代の全日本プロレスの四天王プロレス。

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