スポナビのデータが解き明かす「新ファンセグメント」と「未来のスポーツメディア」

大島和人

一方的な「発信」から「流通」の時代へ

新興リーグであるBリーグへ、いかに別のセグメントから関心を持ってもらうかが重要だ 【スポーツナビ】

 小用が考えるスポナビの大きなミッションは以下の2つだ。

1:スポーツ情報が知りたいお客様のニーズを満たす。
2:スポーツ団体の発展に情報流通で貢献する。

 彼はこう述べる。

「メディアとして新興のリーグのファンが増える状態を作らないと、存在価値がないのではないか? とよく話しています。スポナビの中でどうすればバスケが盛り上がるかということを考えるチームを作ったり、ユーザーにインタビューを実施したりしています。今までは野球、サッカー、バスケと競技単位でセグメントを切ってニュースのターゲットとして当ててきた。それを両輪で別のセグメントと一緒に回していく方法を検討しています」

 スポナビはユーザーへの定性調査などを通して「どういう人が、どういう理由で、どういう競技を見ているか」を調べている。そして、そこからさまざまな相関関係が浮かび上がってきた。データの掘り下げから、ユーザー自身さえ気づいていなかったニーズも開拓できる。それはメディアと競技の両側にメリットのあるアクションだ。

 既に顕在化しているニーズを満たすだけでなく、ファン層を拡大し、新しいニーズを創出する。データを競技団体やリーグに提供し、コンサルタント的に知恵も出しつつ、その成長に寄与する。それがスポナビの「スポーツ団体の発展に情報流通で貢献する」という第2のミッションだ。

 政治報道ならば中立、公正を厳しく問われるし「権力の監視」という発想も欠かせない。スポーツの世界でも不正があれば、メディアは見過ごさず切り込まねばならないだろう。一方でメディアが競技団体の発展に貢献することまでタブー視する必要はないし、実現すればユーザーも含めた3者が得をする状態を作ることができる。

 情報の一方的な発信が、徐々により細やかで洗練された「流通」に変わる――。それが小用の考えだ。もちろん「読者に喜んでもらう」ことは大前提であり、興味が一カ所から全く動かない人もいるだろう。しかし各競技のファンがタコつぼ化した広がりのない状態は、どうしてもそれぞれの種目を弱めてしまいやすい。競技団体やリーグの成長力が奪われ、メディアにも跳ね返ってくる。

大きな「波」が期待される日本バスケ

男子日本代表が活躍を見せる日本バスケ。Bリーグ発足に次ぐ大きな「波」を生かしていきたい 【Getty Images】

 データは生もので、日々刻々と数字が動く。別の見方をすれば選手の奮闘、競技の盛り上げにより調査結果を動かすことができる。バスケ界もこの2019年、Bリーグ発足に次ぐ大きな「波」が期待されている。

 2月には本大会出場をかけたワールドカップアジア2次予選の大一番がある。日本が21年ぶりの自力出場を果たせば、9月には渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)や八村塁(ゴンザガ大)も合流した最強チームが「世界」に挑むことになる。今年は話題性からスポーツに入るユーザーを、Bリーグに引き込む絶好のチャンスだ。

「話題性」から観戦、記事の購読に入ってくるスポーツファンはかなり大きなセグメントになる。そこを入口にする人が多い典型例は、サッカーの日本代表だ。現状だとBリーグはそういう層を十分に取り込めていない。

 サッカー日本代表は「サッカー好き以外」を取り込むことであれだけの視聴率を獲得し、商業的な価値を生み出している。オリンピックを見ても分かるように「日本を背負って世界に挑戦する姿」は国民の感情移入を呼び込みやすい。となれば、バスケの日本代表が光を浴びるタイミングで、上手く重ね合わせた発信ができれば、サッカー日本代表のファンを呼び込めるだろう。

 データの分析、活用にはトライ&エラーもつきものだ。打った手が浸透し、結果に変換されるまでの時間も少なからずある。しかし仮説を立ててそこから施策を実行し、その結果を検証するサイクルで、現実にもたらす影響は上げていける。スポナビが持つデータをBリーグ、日本バスケの発展に結びつけるという構想は、今後スポナビやバスケにとどまらない広がりを持つかもしれない。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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