CL12戦負けなしのアヤックス 「オランダのバイエルン」に近づけるか

中田徹

早い準備、積極的な補強が功を奏す

今季加入したタディッチが2ゴール。CLの舞台で勝負強さを発揮した 【Getty Images】

 アヤックスがCL予備戦・プレーオフで快調に勝ち続けていたころ、私は「おそらく10月か11月に、アヤックスはリバウンドを起こして調子を落とすだろう」と予想していた。今季のアヤックスは6月19日から始動していたのだ。それが「ワールドカップ(W杯)・ロシア大会の日本対コロンビア(2−1)が行われた日」と聞けば、アヤックスのシーズン前の準備がどれだけ早かったか、理解できるだろう。

 すべてはCLグループリーグ出場権獲得のためだった。夏にピークを作らないオランダ勢はCL予備戦・プレーオフを苦手にしていた。しかし、今季のアヤックスはコンディションを早めに上げて、CL予備戦・プレーオフに臨んでいた。

 そんな彼らが秋になっても、冬になってもフィジカルを落とさず、けが人も少ない状態でベンフィカ、バイエルンと壮絶な試合を戦い続けたのだ。そのノウハウは、アヤックスにとって貴重な財産になるだろう。今季、CL予備戦・プレーオフで4勝2分け、グループリーグで3勝3分けと、12戦負けなしの結果は、アヤックスにとって大きな意義があった。

 補強面では、プレミアリーグでプレーするデーリー・ブリント(前マンチェスター・ユナイテッド)、ドゥサン・タディッチ(前サウサンプトン)を獲得した。育成クラブとして名高いアヤックスは、下部組織から選手を引き上げたり、将来高く売れそうな若手選手を安く買ったり、メンターとしてベテラン選手を連れて来たりするケースが多かった。しかし、今季のアヤックスは「必要ならばクオリティーを、金を払って買う」という姿勢を見せたのだ。

 特にタディッチのアヤックス加入は驚きだった。フローニンゲン、トゥエンテで活躍したタディッチは、オランダリーグを卒業してプレミアリーグに羽ばたいていったはずなのだ。だが、タディッチはアヤックスのオファーに飛びついた。アヤックスのことが好きだった。自身のプレースタイルが、オランダサッカーと合った。優勝するようなチームでプレーしたかった。CLの舞台に立ちたかった――。

 そんなタディッチの思いと、アヤックスの思いが合致した。

TDオーフェルマルスが抱く野望

 アヤックスの思いとは何だろう。テクニカル・ダイレクター(TD)であるマルク・オーフェルマルスはチーム始動時に「アヤックスは、オランダリーグのバイエルンになりたい」と抱負を述べていた。もちろん、今後も世界で活躍する選手の育成が優先される。だが、多額の資金を用いてでも、今がピークの即戦力を獲ることも今後はいとわない。そしてサッカーの力の上でも、経営の上でも、PSV、フェイエノールトとの差をつけて、オランダリーグで絶対的な存在になりたい。それが、夏にオーフェルマルスが語っていたことなのだ。

 アヤックスのCL予備戦初戦は7月25日、シュトルム・グラーツ戦だった。セルビア代表として出場したW杯後の休みから戻ってきたタディッチは66分から登場し、ジエクと夢の共演を果たした。

 タディッチ獲得には、ジエクが移籍する穴をあらかじめ埋めておく算段も、アヤックスにはあった。だから、稀有(けう)なレフティー2人の共演は「束(つか)の間の、夏の夢」だと私は思っていた。しかし、今もタディッチとジエクは、素晴らしい阿吽(あうん)の呼吸をピッチの上で見せている。

「まだプレーオフを残していたけれど、スタンダール(・リエージュ)との予備戦で、『これでCLに行ける』と確信し、僕はアヤックスに残った」(ジエク)

 そうジエクに決断させたほどの攻撃的で、支配的なサッカーを、アヤックスは夏から続けてきた。そのサッカーは、勝ち点3こそ取り損ねたが、オーフェルマルスが目標として掲げたバイエルン相手にも通用した。

 だが、アヤックスには「オランダリーグのバイエルン」にはなってほしくない。PSV、フェイエノールトとのレベルの高い健全な戦いこそ、アヤックスも含めてオランダサッカーが発展するすべだからだ。

 今季、PSVは3−0でアヤックスに勝っている。それもまた良しと私は思うのだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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