湘南、忘れられない「シーズン3勝」 初Vへつながる8年前の苦い記憶

隈元大吾

初タイトルまでの歩み

33歳となった島村。今ではチーム最古参の選手だ 【(C)J.LEAGUE】

 15年には、個人的にも心に残る出来事がある。セカンドステージ第6節、アウェー清水戦でセットプレーから決勝ゴールを挙げ、チームを勝利へと導いた。

「清水は早稲田大で4年間教わっていた大榎(克己)さんが監督をやられていたチームだし、アウェーの大声援の中で自分が点を取って勝つことができたことは、個人的にすごく感慨深かったです」

 この年、湘南は初の残留を勝ち取ったものの、翌16年にふたたび降格してしまう。ただ島村は、J2に臨んだ17年から今季にかけての手応えを口にする。

「昨季もJ2で優勝しましたけれど、14年とは違って飛び抜けて強かったわけではまったくなかった。でも逆にチームとして粘り強さが磨かれ、それがベースとなって今季の戦いにつながっています。特に守備の最後の局面は、外から見ていても魂を感じるし、ボールも自分たちで主体的に動かせるようになってきた。何より、いまは勝つことを前提に自分たちの良さを発揮し、たとえスタイルを出せなくても、状況に応じてしっかり守って勝てるようになってきた。去年から今年にかけたこの2年には、チームの成長を最も感じます」

 指揮官のもと、結果に揺るがず自分たちの戦いを育みながら、あわせて勝つために必要な戦いの幅を広げてきた。苦しい経験も次への道しるべとし、そうして彼らはクラブ史上初めてルヴァンカップを掲げた。

 チーム最古参の言葉に感慨がこぼれる。

「グループステージ全敗だった10年は、自分たちとJ1との距離が分かったシーズンだったと思います。そこから何度もJ1に挑戦しては、はね返されましたけれど、自分たちに足りないものを少しずつ積み重ね、そして今季ルヴァンカップのタイトルを取ることができた。J1には絶対残らなければいけないと思っていますし、ここからさらに勢いをもって戦いたい」

清水との一戦に込める思い

前回の対戦では、湘南は清水に2−4と敗れている 【(C)J.LEAGUE】

「フライデーナイトJリーグ」の2日は、清水をホームに迎える。かつての苦い記憶はもとより、5月のアウェーゲームでも湘南は2−4で敗れている。借りを返すのみならず、ひとつでも上の順位を志す彼らにとって、譲れない一戦だ。

 ホームといえば、柏レイソルとのルヴァンカップ準決勝第2戦、延長の末にファイナル進出を決めたPK戦の際の光景と、タイトルを掲げた先日の埼玉スタジアムの景色がとりわけ強く島村の脳裏に焼き付いている。

「柏戦のPK戦のときのスタジアムの一体感は本当にすごかった。サポーターの方が作り出してくれたあの空気感によって僕ら選手は勝てると思わせてもらったし、決勝もホームのShonan BMWスタジアム平塚で戦っているような雰囲気で戦えたからこその優勝だったと思います。あんな一体感の中でプレーできるのは選手として幸せなこと。

 僕自身は今年なかなか試合に絡めていないですけれど、チームの助けになるプレーが少しでもできたら、とずっと思いながら力を溜めています。今季のホームゲームは残り2試合になりましたが、ああいうスタジアムの空気感で一緒に戦ってもらえたら俺たちは勝つためにいっそう引き締まるし、最後に笑ってシーズンを終われるように、みんなと一緒に頑張っていきたいと思います」

 大敗に散ったあの一戦から8年、チームも島村自身も着実に歩を進めてきた。ホームに集うファン・サポーターの声援に包まれながら、共に歩んだ年月を清水戦の勝利に結びたい。

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著者プロフィール

湘南ベルマーレを中心に取材・執筆。クラブオフィシャルの刊行物をはじめ、サッカー専門誌や一般誌等に幅広く寄稿。

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