原巨人に加わる「得点コーディネーター」 韓国で実績残した後藤孝志コーチ
チームが得点を挙げるための「コーディネーター」
試合中、相手投手の交代時に次打者へアドバイスを送る後藤コーチ(写真右) 【写真:ストライク・ゾーン】
「1軍の打撃コーチは1点でも多く点を取るのが仕事」。パーソナルコーチではなく、チームが得点を挙げるためのコーディネーターという意識で臨み、年間864得点を目標に掲げた。
打高投低が顕著な韓国はリーグ防御率が5.17と高い。つまり5点取っても勝てない計算になる。そこで設定したのが1試合6点×144試合となる864得点だった。打順編成を任された後藤はアメリカで得た知識を生かし、3人の打者のうち1人がヒットを打つことを想定して打順を組む「3・3・3」の法則と、2人で1本の「2・2・2」の法則を相手投手や打者のコンディションを見極めながら日々組み換えた。さらに6人に1人は四球で出塁することを念頭に、いかに得点につなげるかをコーディネートしていった。
その結果、斗山の今季の得点は目標を大きく上回るリーグトップの944得点(1試合平均6.56点)をたたき出し、チーム打率も3割9厘とリーグ唯一の3割超えとなった。選手個々では44本塁打、133打点で2冠王となった金宰煥(キム・ジェファン)をはじめレギュラーメンバーの大半が自己最高の成績を残すシーズンになった。
選手から見た後藤コーチ「父親のよう」
崔周煥は後藤について「いつも信じて任せてくれて、長所を伸ばしてくれるからそれに応えたいと思った。僕の場合、練習から100%の力でスイングしないと打撃感をつかめないタイプだと言われたのでそう取り組んだら、試合では自然と逆方向にも長打が出るようになった。調子が悪い時は技術のことは言わないで、メンタルのことだけ心配してくれた」と感謝の言葉が止まらない。
主力選手が好成績を残した斗山。しかし、後藤は結果を残すことができなかった控え選手への気遣いを忘れない。
「バックアップの選手が活気づくとチームが強くなるという、昔からのジャイアンツの文化の中で育ってきたので彼らをもっと底上げできたらと反省しています」
控え捕手の朴世ヒョク(パク・セヒョク)は後藤のことを「いつも気に掛けてくれる父親みたいな存在」と話す。後藤の思いはしっかりと選手に伝わっていた。
9月30日のLG戦ではこんな場面があった。斗山の主力打者・梁義智(ヤン・ウィジ)の頭に相手投手のフォークのすっぽ抜けが直撃。梁義智はその場に倒れ込んでしまった。その瞬間、誰よりも早くベンチから飛び出し梁義智に駆け寄ったのは後藤だった。心配そうな表情で梁義智に声を掛ける後藤。その素早い行動に多少の自己演出があったとしても、それを見た選手は意気に感じずにはいられなかった。
親しい人に語っていた、ある目標
だが後藤のスマートフォンには友人、知人からメッセージがひっきりなしに届いている。その画面にはこんな文字もあった。「夢が叶ってよかったね」。
後藤が親しい人に語っていた目標。それは「原監督の下で1軍コーチになる」だった。現役引退から13年、後藤はようやく原監督から「頼まれてコーチをやる」立場になったのだ。
斗山は今季、2位に14.5ゲームをつける独走で公式戦を制し、11月4日から行われる韓国シリーズでプレーオフの勝者と対戦する。後藤は韓国シリーズについてこう話す。
「僕は選手たちを信頼しているので、韓国シリーズでは笑って見ているだけで大丈夫です。選手の活躍にワクワクしています」
海外で経験と努力を重ねた気遣いの人は、そう言って豪快に笑った。