体に植え付けた「ルーズボールへの意識」 HCに聞く、○○はうちがNo.1 栃木編

藤井洋子

田臥らベテランが率先して示す「泥臭い」プレー

栃木では田臥(写真)らベテランがチームを率先して「泥臭い」プレーを見せる 【(C)B.LEAGUE】

 栃木ブレックスの試合では、選手がコートにダイブするシーンをかなりの頻度で見ることができる。それはさすがに無理だろうと思うような場面でも、選手たちは躊躇(ちゅうちょ)なくボールを追って、コートや客席に飛び込んでいき、結果がどうであれ、観客はその姿勢に拍手を送って選手たちをたたえる。これこそ、“ディフェンスを柱にしたチームが醸成した文化”と言えるのではないだろうか。

 栃木がリーグNo.1を自負するのは、「ルーズボール(こぼれ球)に対する意識」。そして、それを可能にする「ディフェンスの激しさ」だ。安齋竜三ヘッドコーチ(HC)は、「その点では、どのチームにも負けると思っていないし、負けた記憶もほとんどない」と断言する。

 例を挙げるなら、2016−17シーズンのチャンピオンシップ(CS)、川崎ブレイブサンダースとのファイナルでの1コマだ。85−79と栃木が6点リードで迎えた、試合終了まで残り16秒の場面。キャプテンの田臥勇太はルーズボールを追って観客席に飛び込み、その直後にはジェフ・ギブスがボールを追ってコートに倒れ込んだ。(このプレーにより、ギブスは左アキレス腱断裂という大けがを負ってしまった)

 田臥とギブスはこの時、共に37歳で大ベテランと呼ばれる年齢である。経験豊富なトッププレーヤーである彼らが率先して体を張り、泥くさいプレーをしたことで示したのは、「最後の1秒まで戦い抜く」という強い意志であり、その意志は観客だけでなく、同じコートに立つ選手たちをも奮い立たせた。ルーズボールにはそんな力が宿っていることを、彼らは熟知しているのだ。

「ルーズボールへの意識」を植え付けるための工夫

安齋HCが常々言い続けているのが「当たり前のことを当たり前にできるようになるまで追求する」ことだ 【(C)B.LEAGUE】

 栃木はこのシーズン、Bリーグ初代王者に輝いたが、シーズン終了後にはHCが退任し、メンバーもガラリと替わった。にもかかわらず、現在も「ルーズボールに対する意識」を高いレベルで維持できているのは、なぜなのか――。

 昨シーズン、体調不良による長谷川健志HCの退任を受け、シーズン途中から指揮を執ったのが、安齋HCだった。チームが創設された07年から栃木に在籍し、選手、AC(アシスタントコーチ)を歴任した人物だ。そんな安齋HCが常々言い続けているのが、「当たり前のことを当たり前にできるようになるまで追求する」こと。ここで言う「当たり前のこと」とは、「ルーズボールへの意識」「リバウンドを取りにいく姿勢」「ディフェンスの強度を保つこと」を指す。

 安齋HCは、最も基本的で大切なプレーとして、激しいディフェンスとリバウンドを掲げており、それを遂行した結果として、「ルーズボールが発生する可能性が高くなる」と話す。しかし、こうした意識を一瞬も気を抜くことなく持ち続けるのは困難であり、ましてやルーズボールの練習などやりようがない。

 そこで行っているのが、“ルーズボールやリバウンドを追わなかった時”の試合映像を編集して選手たちに見せるという行為。そうやって、なぜそこで足が動かなかったのかを徹底して追求しているのである。こうした行為をAC時代から行ってきたことで、ベテランの選手や在籍年数の長い選手たちの体には自然に染みつき、新しく加わったメンバーも彼らのプレーを見ているうちに、自然とそれができるようになっていくというわけだ。

 今シーズンの栃木は、昨シーズン3ポイント成功率でリーグ1位を獲得した喜多川修平をけがで欠き、大きな得点源を失った。このオフには、攻守両面での活躍が期待される栗原貴宏を獲得したが、「誰か1人ではなく、チーム全員で喜多川の抜けた穴をカバーしていきたい」と安齋HCは語っている。それは“チーム全員で戦う”栃木のプレースタイルそのものであり、それをどこまで成熟させられるかによって、今シーズンの結果が変わってくることだろう。安齋体制となって2シーズン目。成長過程の段階で幕を閉じた昨シーズンの、その先のプレーに期待したい。

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著者プロフィール

2003年にブライダルプランナーからライターに転身。2008年から栃木ブレックスを中心にスポーツの取材を開始。現在は、栃木のスポーツ情報誌「SPRIDE(スプライド)」で編集長を務める、フリーライター。2017年12月に書籍「ブレックスストーリー〜未来に続く10年の記憶」を発刊。

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