U−21からA代表が現実的な目標に アジア大会でアピールに成功した選手たち

川端暁彦

守備の要として存在感を示した板倉と杉岡

杉岡は、韓国戦でも球際での強さを見せていた。早期にA代表へ食い込んできてもおかしくない 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 A代表選手がズラリと居並ぶ攻撃陣を擁した決勝の韓国戦は、ディフェンス陣にとって最も参考になる試合とも言える。

「ソン・フンミン相手に自分がどれだけできるのか。自分の立ち位置を試せる場」と、プレミアリーグで活躍する相手エースを引き合いに出して語っていた板倉は、決勝で組織的かつタフな守りを見せ、水際の攻防を制して0−0のスコアを維持する立役者となった(編注:試合はスコアレスのまま延長戦を迎えたが1−2で敗戦)。

 板倉のプレーでは前半6分にドリブルからボールロストして絶体絶命のカウンターを受けながら、24分に再び同じようなドリブルにトライして今度は成功、ミドルシュートにまでつなげた場面が印象的だ。もちろんミスをしないのが一番だが、ミスしても折れずにトライにいけるメンタリティーは1つの個性。1つのミスでボロクソに言われることになるA代表で戦っていく上では欠かせない資質だ。

 今季は期限付き移籍したベガルタ仙台でしっかり存在感を出していることを含め、「A代表行き」の可能性を持った選手なのは間違いない。186センチの長身ながら足元の技術があり、ボランチでもプレー可能。そういう幅のある選手である点も魅力だ。

 韓国戦では左ウイングバック、時には3バックの左でプレーした杉岡大暉も有力候補の1人。「同じミスを2度しない」(チョウ貴裁監督)賢さを持ち、球際での戦いにもめっぽう強い。かつて日本代表を率いた岡田武史氏が強調していた「冷静にファイトする」部分を自然体で出せる選手だ。

 韓国戦は「まだまだだなというのが正直な気持ち」と吐露したが、1対1のバトルを含めてまるで通用しなかったというわけでもない。3バックシステムを採用する以上、左利きのDFは貴重なため、早期にA代表へ食い込んできてもおかしくない。本人の意識もA代表入りに向いており、決勝後「またアジアで頂点をとりたい」と、来年1月のアジアカップへの意欲も語ってくれた。

 韓国戦ではJ2所属の原の株も上がった。今季は新潟が不調にあえぐ中で、視察した日本サッカー協会のスタッフにネガティブな印象を与えることもあったのだが、いざ呼ばれてみれば、冷静沈着な“らしい”プレーを継続的に披露した。韓国との決勝ではソン・フンミンと主にマッチアップ。ギリギリまで粘って食い下がり、あらためて能力の高さを感じさせた。

将来性を感じさせた攻撃陣

前田は森保戦術における1トップの、一つのあり方を提示した 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 攻撃陣はJ1で確たる実績を持つのが三好康児くらいで、その三好も今大会は負傷もあってベンチを温めることが多く、すぐにA代表という感覚になれる選手はいなかった。ただ、インパクトがなかったというわけではない。

 たとえば前田大然は、戦術的にも要となるくらいの存在感を発揮した。圧倒的なスピードと体の強さ、ゴールへと向かい続けるメンタリティー、そして何より「走るのが好きというか、追ってミスさせて拍手されるのがうれしい」という猛烈なチェイシングで相手のビルドアップを壊し続けた。負傷で決勝を棒に振ってしまったのが惜しまれるが、森保戦術における1トップの、一つのあり方を提示したとも言える大会だった。

 シャドーの位置から2人しかいない全試合出場選手となった岩崎もインパクトは十分。持ち前の馬力を生かしたプレーに磨きがかかり、1月の招集時に迷いながらプレーしていたのがウソのように吹っ切れたプレーぶりでチームのけん引車となった。J2リーグで下位に沈む京都サンガF.C.では主にサイドでプレーしているが、やはりゴールに迫っていくプレーで輝く選手かもしれない。

 またスーパーサブ役として大学生の上田綺世も得難い存在感。「出れば必ずチャンスを作ってくれる」という指揮官の言葉どおり、スピーディーな動き出しとヘディングの強さを武器にチーム最多得点を記録。前田に代わって先発した決勝では課題も見せ、「もっと上のレベルでやらないと」という危機感をのぞかせていたが、将来的な飛躍の可能性を十分に感じさせた。

アジアカップだって分からない

ソン・フンミン(7番)らA代表選手を要する韓国を相手にしたこともまた、特別な刺激となった 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

「森保兼任監督」の誕生によって、東京五輪世代の選手たちは、いやが上にも「A代表」を意識させられることとなった。「『東京経由カタール行き』、ではない」と指揮官も言う。目指すのは、2020年の夏を迎えるその前に、A代表へ定着する選手たちがこの世代から出てくることだ。

 A代表が現実的な目標として認識されるようになり、決勝ではA代表級の選手をそろえる韓国を相手にしたことで特別な刺激を受けた選手たち。まだ選ばれている選手たちには及ばないかもしれないが、若さが生み出す伸びしろは侮れないし、計算もできない。1年後や2年後はもちろん、4カ月後に迫ったアジアカップだって分からない。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント