巨人正捕手争いに見える阿部慎之助の影 定まらない起用法と主力投手の“小林推し”

鷲田康

存在感が際立ったノーヒットノーラン

正捕手の座を確保できるかどうかは打撃次第か 【写真は共同】

 ただ、これは一流のこだわりでもあった。

 意図したボールを、意図したところに投げ込むことで相手打者を抑えてきた。ボールの威力と制球力があるからこそ、捕手のリード、配球は投球の大きなファクターになる。

 だからこそ投手としての自分を知り尽くす小林を指名したのだった。

 6月の広島戦で滅多打ちにあったこともあり、最終的にはこの3連戦で“直訴”は受け入れられずに小林の先発は実現しなかった。

 しかしその広島戦では宇佐見と組んだ山口が2回7失点、大城と組んだ菅野が5回6失点と捕手を替えても大炎上。続く東京ヤクルト戦も3連敗したところで、7月27日の山口の先発に合わせてようやく“直訴”が叶ったわけだった。

 山口がわざわざ“直訴”して実現したバッテリーだからこそ、このノーヒットノーランは女房役としての小林の存在感が際立った試合でもある。投手陣を支える2本柱の絶対的信頼があるからこそ、巨人の正捕手争いの1番手は小林だということを感じさせた試合だった。

 ただ、一番近いところにいても、決してその座を手に入れている訳ではないのが、巨人の捕手の定位置争いの難しいところなのだ。

「彼がきちっとポジションを固めてくれたらチームにとっても、それはいいことだと思いますけどね」

 開幕前に高橋由伸監督の小林評だった。

「でも、レギュラーと決まった訳でもないし、競争を勝ち抜いて、こっちが使いたいというものを見せてくれなければなかなか固定はできない」

 この正捕手争いの状況はいまも続いている。

 結局、開幕しシーズンが中盤を過ぎた今も、何一つ解決していないのが現実なのである。

「当分は3人を併用」と村田コーチ

 小林にはリードやキャッチングなど守り面でもまだまだ課題があるという指摘はある。ただ捕手としての素養は12球団のトップクラスであることは間違いない。

 送球の素早さと合わせた肩の強さ、スローイングの正確さ。昨年の盗塁阻止率3割8分は両リーグ1位。しかも故障に強く、ケガによる欠場もほとんどない。こうした守備面を考えれば小林は、12球団を見回して1、2を争うレベルの捕手であることは確かだ。

 ただ、打てないのは相変わらずである。

 昨年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では日本代表の正捕手として攻守にベスト4進出の立役者となり、ノムさん(野村克也元ヤクルトほか監督)もその捕手力を大絶賛したほどだった。ところが帰国後は、国際舞台での勝負強さがウソのようにバットが湿り最終的には2割6厘で規定打席到達選手の最下位、いわゆる“逆首位打者”となっている。そして今季も開幕直後こそ3割越えの成績で一時は打撃リーグトップに躍り出る一幕もあったが、その後は月間打率1割台を連発して7月末時点で2割3分7厘と急降下している。

 ただ、小林と競う大城と宇佐見の若手二人も肝心のバッティングに精彩を欠いているのが、首脳陣の苦しいところなのだろう。

 小林に変わって二人が先発した6月29日の中日戦から小林が先発復帰する直前の7月26日のヤクルト戦までの21試合。大城は11試合に先発して途中出場を含めて37打数7安打の打率1割8分9厘で1打点、10試合に先発した宇佐見に至っては34打数4安打の1割1分8厘で2打点という数字だ。

 要は誰にも決め手がない。

 3人が打てないのであれば、守りを重視した起用になる可能性もあるがそうともいえないのは、こんな言葉を聞いたからだ。

「結局は先発する味方投手とのコンビネーションと相手投手との(打撃の)相性を見ながら、当分は3人を併用していくことになるやろね」

 村田真一ヘッド兼バッテリーコーチに聞いた3捕手の起用法である。

 おそらく菅野と山口から指名を受けたことで、今後は二人の先発のときには小林が主戦としてマスクを被ることになるはずだ。あとはその他の投手のときには、相手投手の右左で左投手なら小林、右投手なら若手二人を併用することになる。大城と宇佐見の起用は相手の投手との相性や打撃の状態を見極めて決めていくということになるのだろう。

「結局、阿部が偉大すぎたということなんだ」

 こう語っていたのは投手出身のある巨人OBだった。

「巨人は阿部慎之助という捕手の幻想を求めすぎているんじゃないか。もちろん高橋監督も、今のキャッチャー陣に阿部クラスの打撃を求めるのはムリなのは百も承知していると思う。ただ、それでも守りだけと割り切れずに2割3分より2割5分、2割5分より2割8分と捕手のバッティングにこだわってしまう」

 打てる捕手を求めて巨人は捕手3人を併用してシーズンを凌ぐ道を選ぶ――それはまさに古田さんの金言通りだった。

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著者プロフィール

1957年埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、報知新聞社入社。91年オフから巨人キャップとして93年の長嶋監督復帰、松井秀喜の入団などを取材。2003年に独立。日米を問わず野球の面白さを現場から伝え続け、雑誌、新聞で活躍。著書に『ホームラン術』『松井秀喜の言葉』『10・8 巨人VS.中日 史上最高の決戦』『長嶋茂雄 最後の日。1974.10.14』などがある。

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