錦織、正統派テニスで“くせ者”封じる かつてのライバル破り全英3回戦へ
7年前の“時の新星”トミックと対戦
ウィンブルドン2回戦の相手は、かつてライバル視したトミックだった 【写真:アフロ】
「トミックがいなければ、もっと喜んでいたかもしれませんが……」
ここで錦織が名を挙げたバーナード・トミック(オーストラリア)とは、11年のウィンブルドンで、18歳にしてベスト8に躍進した“時の新星”。2メートルに迫る長身ながら、パワーに頼らず老獪(ろうかい)とも言えるプレーを見せる3歳年少者は、錦織の負けず嫌い魂に火を入れ、向上心を賦活(ふかつ)してくれる存在でもあった。
そんなトミックは25歳を迎えた今、世界の184位で、今大会にも“ラッキールーザー”(本戦欠場者が出た事での繰り上がり出場)として辛うじて本戦入りを果たしている。決して、大きなケガなどがあった訳ではない。ただ、コート内外の素行や発言が周囲との軋轢(あつれき)を生み、テニスと真剣に向き合えない時期を多く過ごした。「なんかテニスに飽きてきた。この数年モチベーションがない」と初戦敗退後に投げやりに言い放ち、物議を醸したのが1年前のウィンブルドン。「この競技に敬意を払ったことはない」の放言は、多くのファンや関係者の反感を買い、スポンサーを失いもした。
かつてはライバル視したその選手を、錦織は「あれだけ才能があって軽くトップ10に行けるような選手なのに」と評する。「僕がとやかく言う立場でもないので」と断りを入れながらも、「彼が日本人だったらいろいろとアドバイスはしたいですが」とこぼす一言に、微かな憂慮がにじみもした。
そのような難解な相手との対戦は、予想どおり競ったものとなる。物憂げに放つ緩いボールから一転、突如強打するトミックのテニスは、彼のキャラクターを反映するようにつかみどころがなく不可解だ。第1セットは錦織にミスが目立ち、相手へと明け渡した。
難解な相手には王道で対抗
シャツで汗をぬぐうトミック。錦織は第1セットを奪われたものの、正統派テニスで勝利をつかんだ 【写真:ロイター/アフロ】
その一つは、サーブの安定。「スピードも大切ですが、グラス(芝)ではコーナーに入るだけでエースにもなる」という特性を考慮し、確率とコースに心を配った。とりわけトミックは、サーブのコースを読んで早めに動くクセがある。だからこそ相手の裏をかくための伏線も張り、「しつこくセンターを狙った」場面もあった。試合を通じ24本を数えたサービスエースは、そのような駆け引きと配球の賜物だ。
ネットに多く出ていくことも、芝での定石とも言えるプレー。この日の錦織は相手の8本を大きく上回る、18のネットポイントを決めてもいる。そしてこの試合で錦織が示した最大の戦術とは、いかなる状況でもチャンスがくると信じ、ポイントやゲームを捨てぬ姿勢だ。その点における両者の対比が最も色濃くコートに映し出されたのが、第2セット終盤の攻防。トミックサーブの第8ゲームで錦織は40−15とリードされるも、相手のスライスを鋭く広角に打ち分け、4ポイント連取でブレークに成功した。対するトミックは続くゲームでは明らかに闘志を欠き、最後のポイントではリターンの構えも見せずエースを決められベンチに下がる。その後も試合はもつれるが、窮状を幾度も救ったのが、この日好調のサーブとネットプレーだ。2−6、6−3、7−6、7−5の辛勝を錦織にもたらしたのは、非王道に対する正統のテニス。それは、日々積み重ねてきたものへの正しさに対する、篤信と矜持のようでもあった。
そのトミックを破った先で待つのは、こちらも錦織が「才能のある選手」と認めながらも、潜在能力を完全開花させているとは言い難いニック・キリオス(オーストラリア)。予測のつきにくい難敵をネットの向こうにまわし、踏破してきた道の正しさを信じながらの戦いが続く。
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