組織のブラジルと、依存のアルゼンチン 対照的な両監督の「エースの扱い方」

沢田啓明

豪華な攻撃陣を擁するも、点が取れないアルゼンチン

ディバラ(右)ら優れたタレントを擁するアルゼンチンだが、GS3試合での総得点はわずかに3 【Getty Images】

 一方、アルゼンチンはブラジル大会以降の4年間で、チームの指揮を執ったのは現在のホルヘ・サンパオリが3人目だが、監督が変わってもエースに過度に依存する状況は変わらない。

 いずれの監督もメッシをチームの中心に置き、彼がプレーしやすいことを第一に考えて、チーム作りを行った。その結果、メッシが抑えられてしまうと、チームの攻撃が機能不全に陥る。メッシ自身も、パスが出ないと中盤の深い位置まで下がってボールを受け、そこからドリブル突破を図ったり、無理なロングパスを通そうとするなど、強引なプレーが多い。ほとんど彼1人の力で勝った試合もあるが、レベルが高い相手にはなかなか通用しない。

 現在のアルゼンチンは守備陣が深刻な人材不足で、長年、守備の柱を担ってきたマスチェラーノも衰えが著しい。しかし、攻撃陣にはメッシの他にもセルヒオ・アグエロ、ゴンサロ・イグアイン、パオロ・ディバラ、アンヘル・ディ・マリアらブラジルに優るとも劣らないタレントがそろう。しかし、南米予選18試合での得点はわずか19で、参加10カ国中7位タイ(ブラジルは41得点)。W杯本大会でもGSの3試合で総得点が3と、この豪華メンバーでこの数字というのは、にわかには信じがたい。

内気なメッシがリーダーに向いているとは考えにくい 【Getty Images】

 バルセロナの下部組織時代のチームメートが「全く口を開かないので、てっきり話せないのだと思っていた」と述懐するほど内気なメッシが本来、リーダー向きとも考えにくい。ブラジルと同様、アルゼンチンもエースに依存しすぎることの危険性に早く気付き、主将を他の選手に任せることを含め、あらゆる手段を用いて彼の重圧を軽減して、組織としてプレーする方向へ舵(かじ)を切るべきではなかっただろうか。

 ブラジルとて、第2戦のコスタリカ戦は大いに苦戦した。普段なら簡単に決めるはずの決定機を外したことで、ネイマールがひどくいら立ち、そのことが他の選手にも伝染して、チーム全体がおかしくなっていた。もし以前のようにネイマールに依存したチームであったならば、おそらく勝ち点3を取れていなかっただろう。しかし、ネイマール以外の選手の連係で先制し、最後はエースが決めて試合を終わらせた。

 ともあれ、フットボール、とりわけW杯では、何が起きるか分からない。1982年のスペイン大会において、1次リーグを3分けの2位で突破したイタリアが、その後、強豪を次々と破って優勝した例もある。

 GSでブラジルのように実力を発揮した国が、ラウンド16以降も順当に勝ち上がっていくのか。あるいはアルゼンチンのように苦しみ抜いた国が突然覚醒(かくせい)するのだろうか――。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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