常勝軍団・大阪桐蔭の挑戦2018

大阪桐蔭投手陣を支える正捕手の思考 小泉航平が常に危機感を持たせる理由

沢井史

福井前主将に学んだ捕手の姿勢

明るいキャラクターでチームのムードメーカーとしても活躍する小泉。最後の夏は「投手ファースト」でチームを勝利に導く 【写真は共同】

 根尾に限らず、同級生には藤原恭大や中川卓也ら中学時代に名を馳せた選手ばかりだったが、小泉は周囲がどうこうと考えたことはない。周囲より、前述の“正捕手になって甲子園で優勝する”という目標を完遂させるために自己をどう磨くかに集中していたからだ。そんな中、常に目の前にいたのは前正捕手で主将も務めた福井章吾(慶應義塾大1年)だった。

「福井さんにはキャッチングや配球のことはもちろん、捕手としての姿勢について隣で勉強させてもらいました。寮でも福井さんの話を聞いて、一緒にお風呂に浸かってアドバイスを聞いたこともありました。自分は1年の頃は、抑えられなかったり自分が構えたところにボールが来なかったらイライラすることがありました。でも、それではダメ。キャッチャーはまずは信頼されるようにならないといけない。その点、福井さんは周りに対して聞く耳をちゃんと持って、自分が自分がという振る舞いはしていませんでした。レギュラーを掴む競争をする以上は、どんどん自分を出すことも必要だけれど、キャッチャーは自分を出すのが全てではないポジション。自分はもともと我が我がというタイプではないですけれど、それぞれのピッチャーの特性を一番知っておくこと。何かあれば常に声を掛けること。それと、どの投手にも公平に接するようにしています」

自分がどれだけ冷静になれるか

 ただ、これだけは福井とは逆の考えを持っている。福井はピッチャーに対して前向きになるような言葉を掛け続ける“ポジティブ思考”だ。だが、小泉は敢えてマイナスな言葉を掛けて、常に危機感を持たせるようにしている。

「プラスな言葉を掛けて乗せていくことも大事なんですけれど、試合前から打たれるイメージばかりを考えて最悪の状況を考えていた方が、いざその状況になった時に冷静でいられるんです。ピッチャーが慌てた時でも自分がどれだけ冷静にさせることができるかも自分の役目だと思っています」

 昨夏の大阪大会決勝の大冠戦で、大量リードを奪いながら終盤の相手の驚異的な追い上げに遭った。夏の大会独特の球場の雰囲気、1球ごとに変わる流れ。同時に1球の怖さも学んだ。9回の大冠の攻撃について、福井が「何を投げさせたらいいか分からなかった」と言っていたことも胸に置いている。“あの冷静な福井さんでもそんな心境になるんだ”と。

 だからこそ、夏は投手の一番投げやすい環境を作ってあげたいと心から思う。取材でグラウンドに訪れると、いつも笑顔で挨拶してくれる礼儀正しさと、ムードメーカーでもある小泉のキャラクターが、うまくチームに浸透している。「投手ファースト」の背番号2の挑戦は、いよいよ最終ラウンドを迎える。

【連載】「常勝軍団・大阪桐蔭の挑戦2018」

 史上8度目の春夏連覇を目指す、夏の高校野球100回大会の一番の注目校である大阪桐蔭。常勝軍団と言われる大阪桐蔭のメンバーが、日々どんな気持ちで野球に取り組んでいるのか――個々の選手の素顔に迫る連載を6月29日から開始。7月2日掲載の4回目は、日々の努力が実り、センバツで結果を残した山田健太&石川瑞貴&青地斗舞の3選手に迫ります。

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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