4強の争いで山縣亮太が見せた集中力 5年ぶりの優勝でいざアジア最速の戦いへ

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中盤以降の加速で他の追随を許さず

決勝は第7レーンで走った山縣(左から2人目)。最後は体1つ分の差をつけてゴールした 【岡本範和】

 第7レーンに位置する山縣の右隣の8レーンには、そのロケットスタートで昨年他を圧倒した多田。左隣の6レーンには準決勝で山縣に迫った小池祐貴(ANA)。そしてその奥の5レーンにケンブリッジ、4レーンに桐生と、役者はそろった。

 スタートの号砲が鳴った瞬間、ほぼ横一線で5人が飛び出すが、前傾から体を起こし始める20メートルから30メートルのタイミングで前に出たのが山縣だった。この時点でスタートが得意な多田を体1つ分以上の差を付けると、さらにほかの3人とは中盤の加速力で違いを見せて一気に前に出る。最後の伸びでケンブリッジが桐生と小池に競り勝ったものの、山縣はその追随を許さず、体1つ分の差をつけてゴール。昨年、サニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)が記録した大会記録タイをマークし、ゴール時に発射された赤い紙テープと、2万658人の観客の大歓声という祝福を浴びた。

「集中していたので、いいスタートになったと思います。実際、自分が前に出たか、横並びだったかは分からないのですが、集中していた分、(周りの選手が)見えなかったので、いいスタートになったのかなと思います」

 迷いや不安、焦りや力みといった要素は、約10秒で決着がついてしまうレースでは致命的な足かせとなってしまう。それを山縣は「集中力」で払拭(ふっしょく)し、自分が今出せる力を出し切ることに成功した。

「集中というのは、具体的には目線。自分の走るレーンをどれだけ見ているか。そういうところだと思うし、それ以外にないかなと思います」

 悩みに悩んで行き着いた答えが、このようなシンプルな解答だったのだ。

海外では中国選手が9秒91を記録

優勝とともにアジア大会代表に内定。勢いのある中国勢との戦いに期待が高まる 【岡本範和】

 ただ、このシンプルな解答に行き着くためには、それまでの課題をしっかりと検証し、クリアにしてきたことが重要なことでもあった。今季ここまで、山縣は日本人選手に対して先着されたことがなかった。それでも「負けていないのは結果論。運も味方につけたのはあります。ただ自分のレースを振り返って、今日の走りはどこが良くてどこが悪かったのかを明確にし、それを次につなげていけば、次はもっと良くなる。今、自分がやるべきことを頭に入れてやっていたので、今回の優勝に結びついたのだと思います」と、日本選手権のために積み重ねてきたものの大切さを話している。

 そして山縣は、すでに次の戦いへと視線が向いた。

「(次の目標は)アジア1位だと思っています」

 今回の優勝で8月に開催されるアジア大会(インドネシア・ジャカルタ)の代表内定を決めた。くしくもこの日の朝、中国の蘇炳添がアジア記録タイとなる9秒91をたたき出し、絶好調をアピールしている。蘇は15年にアジア出身者として初の9秒台を記録し同年には世界選手権北京大会で、男子100メートルのファイナリストとなっている。直前の大会では、同じく中国の謝震業が9秒97で走っており、山縣はアジア大会で複数の“9秒台スプリンター”と直接対決をすることになるだろう。

「アジア大会では中国に速い選手がいるので、日本代表として、やはりアジアで1番を目指したいと思います」

 自分より自己ベストが速い相手と対峙(たいじ)するまでに、どんな課題を見いだし、どんな解決方法を導くか。その答えが出たとき、山縣は再び、表彰台の一番高いところに立つことになるだろう。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

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