【大海賊祭】鈴木みのるが30周年でオカダとドロー IWGPの“お宝”奪還をファンに約束

高木裕美

今まで誰もやったことのないあり得ないカード

“世界一性格の悪い男”鈴木みのる(右)が、デビュー30周年記念イベント「大海賊祭」でオカダ(左)とシングル戦。(写真は昨年の対戦時のもの) 【写真:SHUHEI YOKOTA】

“世界一性格の悪い男”鈴木みのるが、デビュー30周年記念イベント「大海賊祭」を神奈川・横浜赤レンガ倉庫イベント広場で23日、24日の2日間にわたり開催。初日となる23日はあいにくの土砂降りとなったが、それでも1万8000人(主催者発表)が来場。目玉イベントの「大海賊プロレス」では、雨がいっそう激しく降りしきる中、みのると“レインメーカー”オカダ・カズチカが30分時間切れとなる激闘を繰り広げ、リングを取り囲んだちびっこやファンが熱狂した。

 鈴木みのるは1968年6月17日、横浜市生まれの50歳。高校時代はレスリングで活躍し、87年3月に新日本プロレスに入門すると、88年6月23日に飯塚孝之(現・飯塚高史)戦でデビュー。89年3月にはアントニオ猪木との対戦が実現するも、その後、UWFに移籍。91年3月にUWFを退団し、プロフェショナルレスリング藤原組に参加した。だが、93年1月に藤原組を退団し、同年8月、船木誠勝らとともにパンクラスを旗揚げ。2003年には古巣の新日本に参戦すると、その後はプロレスリング・ノア、全日本プロレスなどにもレギュラー参戦し、三冠ヘビー級やGHCヘビー級など、数々のタイトルを獲得。昨年1月からは新日本に主戦場を移し、NEVER無差別級、IWGPインターコンチネンタル王座を奪取した。

 10年前のデビュー20周年大会は、40歳の誕生日である08年6月17日に東京・後楽園ホールで開催。この時はメインイベントで“盟友”高山善廣と約5年ぶりとなる一騎打ちを行って勝利したほか、“宿敵”モーリス・スミスとも5分間のエキシビション・マッチを行った。

 それから10年。今回、自身のデビュー30周年記念イベント開催にあたり、みのるがこだわったのが、「これまで誰もやらなかったこと、そしてこれからも誰にもできないことをやりたい」という、無料、そして野外だからこそ、あり得ないものを見せたいという思い。そこで、5月のカード発表当時は現役のIWGPヘビー級王者であったオカダとのシングルマッチという、ビッグマッチのメイン級のカードを用意した。

大雨でも非日常感を楽しむプロレスファン

 みのるとオカダはこれまで5度シングルで戦っており、戦績はみのるの1勝3敗1分。昨年は2度対戦しており、2.5北海きたえーるではIWGP王座を賭けて戦い、オカダが40分46秒、レインメーカーで勝利。また、8.8横浜文化体育館での「G1 CLIMAX」公式戦では、30分時間切れ引き分けとなっている。ちなみに、今年の8.2福岡でのG1公式戦Aブロックでも対戦が決定した。

 屋外でのプロレスイベントとなると、FMWが1990年に伝説を作ったレールシティ汐留や“聖地”川崎球場、UWFインターや新日本が使用した神宮球場、ZEROが「奉納プロレス」を行っている靖国神社相撲場、大日本プロレスがファイヤーデスマッチなどを開催する大阪・鶴見緑地花博記念公園、みちのくプロレスが使用し、武藤敬司の化身・黒師無双が初登場した宮城ニューワールド屋外駐車場、DDTプロレスリングのキャンプ場など、“名所”が数多く存在。今回のような無料イベントでも、プロレスリング・ノアが07年から3年間、汐留・日本テレビB2ゼロスタ広場で開催した「汐留街頭プロレス」や、大日本が横浜の各地で行う商店街プロレスなどが催され、普段はプロレスを見ないような一般層にも広く周知してもらえるきっかけ作りとなっている。ただ、やはり、屋外の場合、ネックとなるのが天候だ。DDTが09年6月16日に日本最古の遊園地「浅草 花やしき」で史上初の遊園地貸切プロレス「花やしきプロレス」を開催した際には、今回よりもさらにひどい雷雨に見舞われたが、集まった400人の観客は逆にこの非日常感を最大限に満喫。雷鳴とどろき、雨脚がなおいっそう強まる中、足場の悪さにもひるまずに必殺技のフェニックススプラッシュを敢行した飯伏幸太には拍手喝采が送られた。

 今回の「大海賊祭」でも、横浜という地の利と、無料というハードルの低さを生かし、たくさんの人たちに、「新しい出会い」をしてもらいたいというのがみのるの目的であったが、あいにくの大雨のため、ちびっこ向けアトラクションは中止。だが、雨の中でも、アーティストやお笑いのライブやトークショーなどは行われ、大勢の人が足を止めて注目。また、みのるが愛する漫画「ONE PIECE」の作者・尾田栄一郎さんが描いたみのるのイラストの前では、たくさんのファンが記念撮影を行った。

メインは30分時間切れ引き分け

 23日の「大海賊プロレス」は全3試合が行われ、第1試合では同じ「海」繋がりで、千葉のマスコットキャラクター的存在であるマリーンズマスクが横浜の地に参上。第2試合では鈴木軍のKESことランス・アーチャー&デイビーボーイ・スミスJr.が登場したが、アーチャーはこの大雨の中でも、ペットボトルの水を撒き散らして入場した。

 そして迎えたメインイベント。まずは中村あゆみさんが「風になれ」を生歌で熱唱する中、みのるが白タイツ&銀髪で登場し、客席からは大きなどよめきが起こった。みのるは、パンクラス時代の93年11.8神戸ワールド記念ホール大会で組まれた2度目のモーリス・スミス戦で初めて白のタイツを着用して以来、「大一番」限定で使用。スミス戦では、次の94年5.31日本武道館、08年6.17後楽園でのエキシビションと3度着用している。その他、02年11.30パンクラス横浜文化体育館での獣神サンダー・ライガー戦、04年11.13新日本大阪ドームでの佐々木健介とのIWGPヘビー級戦、06年3.5ノア武道館での秋山準とのGHCヘビー級戦、07年7.1全日本・横浜での武藤敬司との三冠ヘビー級戦など、因縁のある敵との勝負時に着用してきた。

 対するオカダは、大雨の中を大量のオカダドルが舞う、まさに「金の雨が降る」状況で、堂々のレインメーカーポーズ。コールも中村あゆみさんが行うと、和田京平レフェリーの紹介時にはおなじみの「京平」コールも起きた。

 雨脚がさらに強まった16時20分、試合開始のゴング。オカダの低空キックから場外戦となると、リングサイドのちびっこたちは大興奮。5分過ぎ。みのるはロープを使ってのぶら下がり式腕十字を繰り出すと、さらにパイプイスを持ち出すが、これは京平レフェリーに止められる。10分過ぎ、みのるがスリーパーを繰り出すと、オカダもリバースネックドロップ。さらにダイビングエルボードロップも狙うが、かわされる。15分過ぎ、みのるが卍固めでとらえると、オカダもツームストンでお返し。ヒザをついてのエルボー合戦からスタンドに移行すると、みのるは後ろ手に組んでオカダを挑発してみせる。20分過ぎ、エルボー合戦からオカダが崩れ落ちるが、起き上がりざまのラリアットで反撃し、ダブルノックダウン。オカダのレインメーカーをかわしたみのるがドロップキックを放つと、再びダブルノックダウン。みのるは打撃のラッシュから張り手、スリーパーとたたみかけ、25分経過のアナウンス後、ゴッチ式パイルドライバーへ。しかし、オカダも粘ってこらえ、これは不発。逆にオカダが昨年の札幌大会でも見せたゴッチ式ツームストンで脳天から突き刺すと、レインメーカーを狙うが、みのるが振り切って張り手で反撃。すでに残り時間は2分。みのるはコブラツイストからグラウンドコブラに持ち込み、オカダを締め上げるも、極めきれないまま、時間切れ引き分けとなった。

天龍の持つIWGP最年長記録更新を狙う

 屋根もまったくないリングで、足場も滑りやすくコンディションが最悪な中、30分間戦い抜いた両者に、客席からは温かい拍手と歓声が起こるが、みのるは「惜しかったとか、よく頑張ったとか、そんなもん、どうでもいい。勝負は勝たなきゃ、勝って次行かなきゃ、勝負してる意味ねぇんだよ。いい試合やって、『よく頑張ったね』って言ってくれるのは、おまえらのお母さんだけだ」と、この結果に納得せず。「ガキども、世の中そんなに甘くねぇぞ。勝ち続けろ!」とまずはリングサイドのちびっこたちにメッセージを送ると、「それから、しょぼくれてる中年ども。オレは先週50歳になった。だけどな、オレは誰にも負けねぇよ。相手が30歳であろうと20歳であろうと。だからよ、おまえらが何もしないで指くわえてプロレス観てるだけだったらな、おまえらの欲しいもの、全部オレが持ってくぞ!」と、同年代にもエール。

 客席から飛んだ「IWGP!」の声に対し、「IWGP、あれはオレの予約済みだ」と、現在ケニー・オメガが保持する新日本の至宝に対してもツバをつけた。長時間の場所取りと雨による体温低下ですでに疲労困憊の観客に対し、みのるは「おまえら、もう帰るつもりじゃないだろうな。祭りはまだまだこれからだ」と、クギをさしつつも、最後は「サンキュー」と感謝のメッセージを送った。

 デビュー30周年、50歳を迎えてもまだまだギラギラした野心と向上心を失わないみのるが、かつて天龍源一郎が樹立した49歳10カ月を超える最年長記録更新で、ついにメジャー3大タイトルの最後の至宝・IWGPヘビー級王座獲りを果たせるか。まずは、今大会の最年長出場者として臨む今年の真夏の祭典G1で、挑戦権獲得につながる結果を残したいところ。この最悪のコンディションの中でも、前IWGP王者と30分間にわたって戦い抜き、かつ、その直後にこれだけのマイクアピールを行えるスタミナを誇る50代であれば、G1、そしてその先のIWGP争奪戦でも、必ず“お宝”にたどり着くことができそうだ。
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著者プロフィール

静岡県沼津市出身。埼玉大学教養学部卒業後、新聞社に勤務し、プロレス&格闘技を担当。退社後、フリーライターとなる。スポーツナビではメジャーからインディー、デスマッチからお笑いまで幅広くプロレス団体を取材し、 年間で約100大会を観戦している 。最も深く影響を受けたのは、 1990年代の全日本プロレスの四天王プロレス。

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