連載:燕軍戦記2018〜変革〜

ヤクルト坂口の新たな挑戦 慣れない守備も「ありがたい」

菊田康彦

ファースト守備は中学生以来

今季はファーストでの先発する機会も多い坂口。守備については「日々少しずつでも前進していけたら」と語る 【写真は共同】

 今シーズンのヤクルトは、開幕を前に外野のレギュラー争いが激化。昨シーズンの後半戦は、坂口のほかウラディミール・バレンティンと山崎晃大朗の3人で外野陣を形成していたが、そこに昨年はケガで後半戦をほぼ棒に振った雄平が戻り、キャンプ直前には昨年までメジャーリーグでプレーしていた青木の復帰も決まった。

 つまり外野の3つのポジションに、レギュラークラスの選手5人がひしめくことになる。そこで首脳陣が打ち出したのが、坂口のファーストでの起用だった。オリックス時代には4年連続でゴールデングラブ賞に輝いた名手にとっては、まさに晴天の霹靂(へきれき)。しかも、ファーストを守るのは中学生以来となれば、なおさらだろう。

 それでも坂口は、試合に出るためにはポジションにはこだわらなかった。「自分にとってもバリエーションが増えるチャンスだし、そういうものを与えていただけるというのは、プレーヤーとしてはありがたいこと」と、難なくこれを受け入れた。

 本来なら正一塁手の畠山和洋が万全の状態ではなかったため、開幕戦に「6番・ファースト」で出場した坂口は、ここまで30試合中23試合にファーストで先発。ファーストの練習に取り組んだのは春季キャンプの途中からであり、4月3日の広島戦では自身の失策が失点につながることもあったが、準備期間の短さを言い訳にはしない。

「期間が短いからとかは言い訳にならないと思うんでね。試合に出るためには与えられた仕事というのがあるわけで、なんとか迷惑をかけない程度にはうまくなりたいという思いはあります。そんなに簡単に慣れたらもともとの内野手に失礼やと思うし、そんなに簡単に慣れるポジションでもないと思うんで、日々少しずつでも前進していけたらいいなと思います」

 坂口を「向上心が強いよね」と評するのは、土橋勝征内野守備走塁コーチ。「今まで十何年も内野なんかやったことなかったのにね。頑張ってるよ、彼は」と、日々の努力を怠らないその姿勢を称える。

「継続することが一番大事」

 こと打撃に関しては、慣れない守備面での負担による影響はまったく見えない。今年から就任した石井琢朗打撃コーチも「我慢するところは我慢してフォアボールを選べれば、必ず結果を残せる」と太鼓判を押す。坂口自身も「塁に出ることが、一番最初に求められてるものだと思うんで、そこは徹底してブレずにやっていきたい」と出塁にはこだわりを持っており、ここまで18四球はリーグ7位、出塁率4割5分5厘は同3位と、いずれも上位にランクされている。

 その坂口の目には、4年ぶりに復帰した小川淳司監督の下で「変革」を目指す現在のチームは、どう映っているのか。

「変わろうとしてますし、変わってきているとも思います。ただ、変わろうとしているからとか、変わってきたからとかで、始めて何カ月かですぐに変われたら何も苦労することはないと思うので……。やっぱり何事も継続することが一番大事だと思いますし、継続してみんなが変わろうという意識を持ち続けることが、ゆくゆく変化につながっていくんだと思っています」

 ゴールデンウイークの最後は、小川監督がことあるごとに口にしている「執念」を体現したようなサヨナラ勝ちで締めくくったものの、この9連戦は3勝6敗。4月30日以降は、昨年の定位置だった最下位に沈んでいる。だが、ヤクルトの「変革」もまだ道半ば。坂口が言うように、そう簡単に変われたら苦労はない。

 社会人出身の新人・松本直樹や高卒2年目の古賀優大にスタメンマスクを被らせ、やはり高卒2年目の梅野雄吾を先発に抜擢(ばってき)するなど、チームの底上げを見据えた積極的な若手の登用も目立つ。これからも勝つことも負けることもあるだろうが、大事なのはそれをどう糧にしていくかだ。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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