野球アナリストが集結するイベントを紹介 スプリング・トレーニングリポート(4)
2012年に始まり、今回が7回目となった「セイバーアナリティクス・カンファレンス」 【写真:データスタジアム金沢慧】
試合のデータを扱うアナリストにとってもそれは同様で、フェニックス中心街のホテルで開かれたイベント「セイバーアナリティクス・カンファレンス」は、重要な情報交換の場となっている。先週、私も初めてこの会に参加し、さまざまな話を聞くことができた。今回はその様子をリポートしたい。
データの分析と活用に特化したカンファレンス
登壇者にはメジャーリーグ関係者、球団関係者、野球の研究機関やメディアのアナリストなど最先端の分析理論を実践している人が多く、スポーツ心理学者や生理学者の経歴を持つ球団スタッフも壇上に立った。「野球のアナリティクス」とは、統計学的な視点による試合データの分析だけでなく、多種多様な専門家の見解が集う領域であることを強く感じさせた。
3日間のカンファレンスでは30分の研究発表、1時間程度の座談会がそれぞれ10本程度行われた。その発表内容をいくつか紹介する。
進化する指標とデータの可視化
彼らは『Baseball Savant』で公表される新指標とデータの可視化について語っており、例えば「投球軌道を3Dで再現するツール」や、「捕手が捕ってから二塁に送球するまでの時間(「ポップタイム」と呼ばれる)」が新しく同サイトで見られると話した。すでに、この2つはサイト上で公開されていて、データやグラフィックを見ることができる。
特に「打たれないためには、打者がスイングすべきかどうか判別しにくい球を投げるべき」という発想から、投球軌道の再現は野球アナリストやスポーツ科学者の中で特に注目度が高かった。このグラフィックには野球ファンが楽しむだけでなく、選手にもプレーを改善するヒントが詰まっているといえる。
フライボールへの意識変化も話題に
カンファレンスには球団関係者だけではなく、さまざまな専門家が参加している 【写真:データスタジアム金沢慧】
打撃面の話題では、いわゆる「フライボール革命」に触れていた。メジャーリーグの打撃は近年、強いゴロやライナーではなく、強いフライを打つように指導の常識が変化しつつあるが、ペレス氏の「小さい頃から『ライナーを打て! ゴロを転がせ!』と刷り込まれてきた選手の心理をどのように変えているのか?」という質問に対し、マッケイ氏は「私も長年フライを打つなという指導をしてきたが、ロッキーズ時代、投手には常にゴロを打たせろと教えるのに、なぜ打者にも転がせというのか? 理解ができなくなった」と語った。ゲッツ氏も「マイナーリーグではショートのポジションにゴロを打てと言われたが、メジャーリーグで同じことをやっても『アウト』になるだけだった」と話した。
また、マッケイ氏は「強いライナーが大事であることは以前から知られていた。ただ、打球速度や打球角度のデータが取れるようになり、最適な角度が数字で具体的に分かるようになった」とも話す。トラッキングシステムがもたらす野球理論の数値化は、指導現場においても重要な指標になっているようだ。
学生も分析発表の機会を競う
学生もベッツ(写真)ら現役選手のデータを使って分析成果を発表した 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
学生が使うデータはStatcastで収集され、『Baseball Savant』で一般に公表されているものだ。最優秀賞に選ばれたチームは翌日、メイン会場で成果の発表を行い「クリスティアン・イエリッチ(ブリュワーズ)の平均打球角度は6度だが、最もいい打撃成績を残せる角度は13度である。逆に、ムーキー・ベッツ(レッドソックス)の平均打球角度は14度だが、9.5度の方がいい成績になる」と、分析結果を披露した。
このようなカンファレンスが行われる背景には、各球団に「アナリティクス」を行う専門組織が作られていることがあげられる。R&D(研究開発)部門は、メジャーリーガーだけでなく、傘下のマイナーリーグの選手も横断的に分析し、能力向上のサポートに一役買っている。
トラッキングシステムが導入され始めた日本プロ野球界でも、専門の研究開発チームを組織するという波は起こり始めている。そのときに、球団はどのような目的でどのような組織をつくるべきなのか。多様な専門家が集っていたこのカンファレンスには、そのヒントが多くあったように思う。
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