野球アナリストが集結するイベントを紹介 スプリング・トレーニングリポート(4)

データスタジアム金沢慧

2012年に始まり、今回が7回目となった「セイバーアナリティクス・カンファレンス」 【写真:データスタジアム金沢慧】

 アリゾナ州で行われるメジャーリーグのオープン戦「カクタスリーグ」はフロリダ州で行われる「グレープフルーツリーグ」に比べて、各球場間の移動がしやすい。もっとも遠い球場でも車で1時間ほどあれば着く。近距離にメジャーリーグの15球団が密集しているため、この時期はメジャーリーグ関係者にとって貴重な交流の機会にもなる。

 試合のデータを扱うアナリストにとってもそれは同様で、フェニックス中心街のホテルで開かれたイベント「セイバーアナリティクス・カンファレンス」は、重要な情報交換の場となっている。先週、私も初めてこの会に参加し、さまざまな話を聞くことができた。今回はその様子をリポートしたい。

データの分析と活用に特化したカンファレンス

「セイバーアナリティクス・カンファレンス」は2012年から始まり、今年で7回目となる。主催しているセイバー(SABR)はアメリカ野球学会(Society for American Baseball Research)の略称で、さまざまなイベントを企画している。そのうち、このカンファレンスはデータの分析と活用、すなわち「アナリティクス」に特化した内容だ。

 登壇者にはメジャーリーグ関係者、球団関係者、野球の研究機関やメディアのアナリストなど最先端の分析理論を実践している人が多く、スポーツ心理学者や生理学者の経歴を持つ球団スタッフも壇上に立った。「野球のアナリティクス」とは、統計学的な視点による試合データの分析だけでなく、多種多様な専門家の見解が集う領域であることを強く感じさせた。

 3日間のカンファレンスでは30分の研究発表、1時間程度の座談会がそれぞれ10本程度行われた。その発表内容をいくつか紹介する。

進化する指標とデータの可視化

 まずはStatcastの座談会から始めたい。Statcastとは投球や選手の動きのデータを半自動的に集めることができるシステムで、その座談会にはメジャーリーグ公式アナリストのマイク・ペトリエロ氏、数々のセイバーメトリクス指標を世に送り出してきたトム・タンゴ氏、メジャーリーグが運営しているサイト『Baseball Savant(https://baseballsavant.mlb.com/)』の開発者ダレン・ウィルマン氏らが登壇した。

 彼らは『Baseball Savant』で公表される新指標とデータの可視化について語っており、例えば「投球軌道を3Dで再現するツール」や、「捕手が捕ってから二塁に送球するまでの時間(「ポップタイム」と呼ばれる)」が新しく同サイトで見られると話した。すでに、この2つはサイト上で公開されていて、データやグラフィックを見ることができる。
 特に「打たれないためには、打者がスイングすべきかどうか判別しにくい球を投げるべき」という発想から、投球軌道の再現は野球アナリストやスポーツ科学者の中で特に注目度が高かった。このグラフィックには野球ファンが楽しむだけでなく、選手にもプレーを改善するヒントが詰まっているといえる。

フライボールへの意識変化も話題に

カンファレンスには球団関係者だけではなく、さまざまな専門家が参加している 【写真:データスタジアム金沢慧】

 次に「プレーヤーディベロップメント」という選手の能力開発をテーマとした座談会では、メジャーリーグの球団で選手育成部門のディレクターを担っている2人が登壇した。ホワイトソックスのクリス・ゲッツ氏は元メジャーリーガー、マリナーズのアンディ・マッケイ氏は長く大学野球やマイナーリーグでの指導に携わった後、ロッキーズで「ピークパフォーマンスコーディネーター」という役職に就いた経歴を持っている。司会進行は元阪神で、現在はスポーツ専門チャンネル『ESPN』のアナリストとして活躍しているエドゥアルド・ペレス氏が務めた。

 打撃面の話題では、いわゆる「フライボール革命」に触れていた。メジャーリーグの打撃は近年、強いゴロやライナーではなく、強いフライを打つように指導の常識が変化しつつあるが、ペレス氏の「小さい頃から『ライナーを打て! ゴロを転がせ!』と刷り込まれてきた選手の心理をどのように変えているのか?」という質問に対し、マッケイ氏は「私も長年フライを打つなという指導をしてきたが、ロッキーズ時代、投手には常にゴロを打たせろと教えるのに、なぜ打者にも転がせというのか? 理解ができなくなった」と語った。ゲッツ氏も「マイナーリーグではショートのポジションにゴロを打てと言われたが、メジャーリーグで同じことをやっても『アウト』になるだけだった」と話した。

 また、マッケイ氏は「強いライナーが大事であることは以前から知られていた。ただ、打球速度や打球角度のデータが取れるようになり、最適な角度が数字で具体的に分かるようになった」とも話す。トラッキングシステムがもたらす野球理論の数値化は、指導現場においても重要な指標になっているようだ。

学生も分析発表の機会を競う

学生もベッツ(写真)ら現役選手のデータを使って分析成果を発表した 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 学生による研究発表コンテストも行われた。このコンテストはカンファレンスを主催するビンス・ジェナーロ氏が、人材発掘を目的に開いているもので、主催者が提示した4選手の「最適な打球角度は何度か?」というテーマについて、各5人で構成された23チームが4つの会場に分かれて研究成果を発表した。

 学生が使うデータはStatcastで収集され、『Baseball Savant』で一般に公表されているものだ。最優秀賞に選ばれたチームは翌日、メイン会場で成果の発表を行い「クリスティアン・イエリッチ(ブリュワーズ)の平均打球角度は6度だが、最もいい打撃成績を残せる角度は13度である。逆に、ムーキー・ベッツ(レッドソックス)の平均打球角度は14度だが、9.5度の方がいい成績になる」と、分析結果を披露した。

 このようなカンファレンスが行われる背景には、各球団に「アナリティクス」を行う専門組織が作られていることがあげられる。R&D(研究開発)部門は、メジャーリーガーだけでなく、傘下のマイナーリーグの選手も横断的に分析し、能力向上のサポートに一役買っている。

 トラッキングシステムが導入され始めた日本プロ野球界でも、専門の研究開発チームを組織するという波は起こり始めている。そのときに、球団はどのような目的でどのような組織をつくるべきなのか。多様な専門家が集っていたこのカンファレンスには、そのヒントが多くあったように思う。
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著者プロフィール

データスタジアム株式会社 フェロー 主にプロ野球各球団でのデータ活用のサポートやメディア出演多数。 NHK「ワールドスポーツMLB」、「球辞苑」やAbemaTVのプロ野球中継でデータ解説役として出演。

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