“高卒ルーキー”遠藤日向の野望 東京五輪はトラックで世界と勝負する

折山淑美

スピード強化の取り組みが自信に

住友電工に入ってからはスピードを付けるため1500メートルから取り組んだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 住友電工に入ってからはまず1500メートルから取り組んだ。1月の都道府県対抗駅伝後はケガもあってシーズン入りが遅れたためと、「大迫傑さん(ナイキ・オレゴンプロジェクト)なども1500メートルからスピードを付けてきているので、自分もスピード強化をしたいというのもありました。渡辺監督も同じ考えだったので、自然にそういう形になった」という理由からだった。

 その中でシーズンを通してピークに持っていこうとしたレースは、6月の日本選手権の1500メートルと7月のホクレンディスタンスチャレンジの北見大会の3000メートル、そして12月の日体大記録会5000メートルだった。日本選手権では予選で3分42秒98の自己新を出し、決勝では舘沢亨次(東海大)に0秒73遅れたが2位になった。さらにホクレンでは鎧坂哲哉と市田孝(ともに旭化成)には敗れたが、狙い通りに7分54秒79で走ってU20日本記録を樹立。また日体大記録会では実業団や留学生のケニア人選手と競り合い、13分38秒79の自己ベストをマークした。狙ったレースのすべてで結果を出せたのは大きな自信になった。

「1500メートルは高校時代に比べるとスピード感がまったく別物になっているのできついというのはあるけど、監督とも東京五輪は1500メートルと5000メートルに絞って狙っていこうと話しています。3分42秒台までいったので、今年はまず(3分)30秒台を出したいなと思っています。五輪までには3分37秒42の日本記録を破って35秒台までいければ……。簡単ではないのは分かっていますが、今の流れをしっかり継続すれば出せる自信はあります。それができれば5000メートルもよくなると思いますし。今は13分38秒なので何とも言えないですけど、いずれは12分台も出したいと思いますね。それで2024年のパリ五輪では5000メートルと1万メートルを狙えるようにして、その次はマラソンに挑戦したいという気持ちでいます」

ライバルは他種目の同世代選手たち

東京五輪ではトラックで勝負したいと語る遠藤。これから始まるトラックシーズンの活躍に注目だ 【スポーツナビ】

 そのためにもこれからは海外のレースを数多く経験していきたいし、大迫のように海外を拠点にしての練習もやってみたいという。そんな経験を積めば、海外の強い選手に対して臆することもなくなるのではないかと。

 目標はあくまでも、五輪のトラックレースで勝負してメダルを取りたいという一点に絞っている。
「箱根駅伝には兄と一緒に、高校の先輩でもある高本真樹さん(駒澤大4年)と山田攻さん(順天堂大3年)を応援するために4区と5区に行きました。ニューイヤーもすごかったのですが、箱根は注目度も違うので『オーッ』と思いましたね。5区は走りたいとは思わなかったですけど(笑)、高本先輩の4区を見た時は『あの中を走ったら楽しいんだろうな、走りたいな』とも思いました。でも僕たちの世代はみんな強いし、特に西山和弥(東洋大1年)とか塩沢稀夕(東海大1年)には負けたくないので、彼らが大学でやっているうちにトラックでは差をつけたいし、自分は『もっと先を見ているぞ』というのを結果で見せたいですね」

 まだ見えないという大迫のレベルや、現在の5000メートルでは日本でトップの松枝博輝(富士通)を早くライバルと言えるまでになりたいという。だがそれ以上に意識するのは同世代の別種目の選手たちだ。
「今一番のライバルだと思っているのは、世界ユースやU20世界選手権へ一緒に出た棒高跳びの江島雅紀(日本大)や、走り幅跳びの橋岡優輝(日本大)なんです。サニブラウン・(アブデル・)ハキーム(フロリダ大)はすごく抜け出しちゃって追いつくのはちょっときついかなという状態ですけど、橋岡は8メートル台を跳んで日本選手権で優勝しているし、江島もすごい高いレベルの選手がいる中で日本選手権で2位タイになり、記録も5メートル65まで伸ばしています。2人とももう少しで世界選手権の標準記録を突破するまでいっているので、それに負けられないというのはすごくありますね」

 今年は世界選手権も五輪もない年。それでも江島と橋岡は99年生まれで今年もU20世界選手権(フィンランド・タンペレ)には出場できる。それはサニブラウンも同じだ。「それって何かズルイですよね、僕だけ出られないなんて! 高3の時はぜんぜんかなわなかったですけど、今だったら自己ベストも上がっているので若干、自分にも期待できると思います。彼らの活躍を指をくわえて見ているというのはすごく悔しいですよ」と笑う。

 そんなモヤモヤ感を吹き払うためにも、トラックシーズンに自己記録を更新していき、世界と戦えるレベルまで上がっていきたい。それが今の遠藤の野望だ。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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