LS北見の銅メダルは金に匹敵する価値 敦賀信人氏がカーリング女子を解説

構成:スポーツナビ

日本と世界との距離感

LS北見の笑顔とコミュニケーションが結果へとつながった 【写真:ロイター/アフロ】

――リンドコーチも選手たちに「ステイポジティブ」と常に声をかけていたようですが、笑顔でのプレーが一番影響した試合はどれだと感じましたか?

 初戦の米国戦(10−5で勝利)の入りですね。今までの五輪では、男女ともに日本は初戦で苦労をしてきました。初戦で(予選通過を)争うような米国に勝つことができたのは大きかった。そして第3戦で今までパシフィックアジアで勝つことができていなかった韓国に土をつけることができました(7−5で勝利)。そして、スウェーデンには負け試合に等しい試合を最後まで我慢強く戦うことができて勝てた(5−4で勝利)。この3試合は選手もすごく前向きに考えていたと思います。

 変に五輪という舞台だとか、絶対に勝たないとだめだとか、そこまでは彼女たちの中になかったと思います。特にリードとセカンドは「いつも通りただ淡々とやるだけです」という感じだったと思います。

 前半の5試合は4勝1敗でいいスタートが切れたと思いますし、あまりにも順調すぎて、私もそこまで結果が出るとは思っていませんでした。ただ、残りの試合が1勝3敗でした。やはりそこで世界との壁にぶち当たって、五輪で勝つことの難しさを味わった4戦だったと思いますが、前半の貯金が後半に生きてきましたし、前半で調子の出なかったチームが予選落ちとなった。1戦目、2戦目できちんと波にのることができたのが日本の良かった点だったと思います。

――予選は5勝4敗の4位と勝ち越し。韓国には準決勝では僅差で敗れたものの予選では勝利を収め、英国戦も粘り勝ち。LS北見は世界で十分に通用するレベルだったように見えましたが、世界との距離という点ではいかがでしょうか?

 勝つチームというのは、実力に加えて運も持っていると思います。タイミングよく強いチームとの対戦をモノにすることができました。もちろん彼女たちには技術も実力もありますし、スウェーデン戦のような運もあったと思います。それを大会で出せるかどうかは、普段の筋力トレーニングや氷上トレーニングに本当に一生懸命に取り組んでいるかどうかだと思います。彼女たちは今大会のどのチームよりも練習をしていると思いますし、その努力が結果に結びついていると思います。

 彼女たちだけでなく、コーチや企業のスポンサーさんも含めてだと思います。今までのカーリングは企業チームが主流だったのが、クラブチームとして活動していろいろな企業に愛されていろいろな方に愛されているチームだなと感じます。

――逆に日本が通用しなかった部分はどこにありましたか?

 世界での経験のなさだと思います。攻めるだけでは勝てない。相手に取らせるだとか、守るだとかのバランスも必要ですが、まだまだ若いので経験が少ないです。波もありますしまだまだ不安定ですが、これから世界大会をどんどん経験することで波もなくなりますし、僅差の試合も数多くこなしてそこで勝ち越せるかというのが大事になってくると思います。

4年後の北京に向けて

――日本では日に日にカーリングの注目度が上がっていきましたが、選手たちはどのように感じていたのでしょうか? プレッシャーなどもあったのでしょうか?

 やはり(予選リーグ最終戦の)スイス戦で調子を崩してきて、何か悩んでいるなと思いました。選手には会ったり声をかけたりはあまりしないのですが、吉田知那美選手と藤沢選手には、「あまり何も考えずに、これだけの舞台で戦えることが幸せなんだから思い切ってやりなさい」というメッセージは送りました。

 スタンプで返事が返ってきたりしていましたが、それだけで彼女たちには伝わっていると思います。自分も今までずっと見てきていますし、一番辛いときというのは分かっているので、自分なりにできることはしようと思い連絡は入れました。

――日本ではハーフタイムの「おやつタイム」や方言などにも注目が集まりました。敦賀さんはこういった形でカーリングに注目が集まる状況をどのように見られていましたか?

 どの競技よりも試合時間が長いですし、選手たちにはマイクがついているので、ハーフタイムも含めて他の競技よりも見られる時間や露出度が高いと思います。選手の声が聞けるというのは他の競技にないことですが、選手の方言やハーフタイムの行動だけで競技を評価されるのは正直困るなと思っていました。ただ、それと一緒に今回の結果が出たことは本当に大きかったと思います。

 それだけで騒がれる競技だったら今後伸びないなと思いましたが、技術もしっかりとしていて銅メダルという結果がついてきました。彼女たちはキャラクター的にも他の競技にはない良いキャラがあり、話題性もあって、結果もついてきました。競技の普及という面では、もちろん他の競技で銀メダルや金メダルを取った選手もすごいとは思いますが、彼女たちにはそれに匹敵するような価値があると感じています。

――次は4年後の北京五輪を目指すことになります。4年後に向けて日本が強化を進めていくために必要なことはなんでしょうか?

 今回は女子が世界で通用する技術や力があると示してくれました。今後は、国内のチームがLS北見に勝つことによって、五輪に出られるかどうかという目安になると思います。国内で切磋琢磨(せっさたくま)をして、世界にどんどん彼女たちに続くようなチームが出てきてくれれば、五輪出場だけでなくメダルも続いていくのではないかなと思います。

(取材・文:澤田和輝/スポーツナビ)

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