トータル的な強さを感じた羽生の演技 安藤美姫が平昌五輪の男子SPを解説

構成:スポーツナビ

流れるジャンプを跳べるかが宇野選手のカギ

3位につけた宇野は、フリーで流れるジャンプを跳べるかがカギとなる 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 3位につけた宇野選手は、初出場であそこまで堂々とした演技をできたことが素晴らしかったと思います。ジャンプが全体的に詰まっていた印象はありますので、フリーに向けてその部分を挽回できるかがカギになってきます。流れるジャンプを跳んだ方が体力は奪われないので、フリーでそこを調整できると、おのずと点数にも反映されると思います。

 また、今回はステップでレベルを取りこぼしていましたが、そこをこぼさず演技することも重要です。フリーは最終滑走ですので、プレッシャーをかけるわけではなく、五輪の最終滑走としてその空気を楽しんでほしいなと思います。緊張よりもワクワク感や、最終滑走で「よし!」というふうに気持ちを持っていってほしいです。宇野選手はその場の雰囲気を楽しめる選手。団体戦から見ても気持ち良く演技をしていましたし、雰囲気を楽しみながら頑張ってほしいです。

 日本からもう1人出場した田中選手は20位からのスタートとなりました。4回転サルコウは、決まった時はとてもきれいなジャンプを跳ぶ選手なのですが、今回はジャンプを跳ぶ前の左手の動きのタイミングがいつもより少し早かったように見えました。それがミスにつながったのではないでしょうか。そのあたりの調整は、フリーではもう少しうまくいくと思います。

 田中選手も今回初出場ですが、きちんと集中しながら演技をしていたと思いますので、その集中を今度は緊張ではなく楽しみに変えて、フリーは思い切り演技してほしいです。全日本選手権以上の演技ができれば、田中選手にとっても大きな収穫になると思うので、そのときよりも成長した姿を五輪で見せてほしいです。

表彰台の可能性があるのは……

ネイサン・チェンは優勝候補と言われながらも、まさかの17位スタート 【写真:ロイター/アフロ】

 一方、優勝候補のネイサン・チェン選手(米国)は17位スタートと、まさかの結果になってしまいました。今回のSPでは、ジャンプの軸が右軸に取れていない印象でした。4回転ルッツの入りは良かったのですが、いつもよりも少し左軸に持っていかれていましたし、4回転トウループは軸が外れていて、トリプルアクセルは踏み切りのタイミングが合っていませんでした。

 全体的にジャンプのスピードとタイミングと、精神面が合っていなかったように感じました。いつもは表現面でももっと攻撃的な選手なのですが、ジャンプでミスがあったことにより、感情面を強く出せなかった印象も受けました。それが5コンポーネンツにも響いたと思いますので、フリーに向けては順位というより、自分の持っている力を100パーセント出し切れるように、今日はしっかり休んでほしいですね。その上で思い切り、リラックスしながらフリーに臨んでほしいです。

 表彰台争いについては、フリーでどのような演技をするかにもよりますが、SPの結果を考えると、5位のドミトリー・アリエフ選手(個人資格/ロシア)まで可能性があると思います。ロシアではミハイル・コリヤダ選手の方が注目されていて、実力も持っていますが、アリエフ選手は4回転ルッツ、4回転トウループ、トリプルアクセルをしっかり決めて、自己ベストを出してきました。それは自信につながると思いますし、表彰台に食い込める位置にいると思います。彼も初出場ですが、あそこまで落ち着いて演技できるのは素晴らしいです。

 SP4位の金博洋選手(中国)は、最終滑走にふさわしい演技だったと思います。最後の最後にきちんと集中して、自分の演技をこの大舞台でやってきました。SPは特にミスが許されないのですが、そこをミスせず、質の高い4回転ルッツのコンビネーション、4回転トウループ、トリプルアクセルをそろえてきました。ジャンプで目立つ選手ですが、スピンやステップも質の高いものを持っています。スケーティングはトップ3に劣ってしまうかもしれませんが、すごく質の高い選手ではあるので、そういう部分にも注目してもらいたいです。

 フリーに向けては、五輪という場所をどうとらえるかです。特別な場所だということは出場している選手みんなが感じていると思うのですが、その中でも自分自身と向き合い、どれだけ集中してその空気を楽しめるかによって、良い演技にもつながります。フリーでは1人でも多くの選手のベストな演技が見られたら、私たちも幸せですし、選手個々の思いやその演技に、私たちは声援を送るのがいいのではないかと思います。

 最後に、私がSPを見ていて一番うれしかったのがミハル・ブレジナ選手(チェコ)の演技でした。同じ年代でやっていて、最近は本来の演技ができていなかった中、ここにきて彼らしい演技が見られました。4回転ジャンプも跳べていましたし、私はそれが密かにうれしかったです。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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