振り付けに表れるスケーターの思い 【対談】宮本賢二×安藤美姫 後編

スポーツナビ

2人が好きなプログラム

宮本さんが好きなプログラムとして挙げた安藤さんの『Say Something』 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――お2人にとって今までで1番印象に残っているプログラムは何ですか?

宮本 美姫ちゃんのプログラムだと『Say Something』が1番好きだな。あそこまで動かないことで逆にそれだけ印象を与えられるんだなと。美姫ちゃんのスタイルとオーラがあるのに、踊らないというのがすごいなと思った。

安藤 確かに動いていないですね。

宮本 動いていないし、少ししか滑らない。長い時間動かないのに、その雰囲気で暇にさせないというスケーターとしての実力と、美姫ちゃんの内から出るものがすごく好き。ぞわぞわしたもん。

安藤 私も『Say Something』はすごく好きなナンバーです。今でもたまに滑ります。先日もフランスのショーでやろうと思って練習していたら、あるペアの方も『Say Something』で、かぶってしまったんです。そのペアは予備の音源と衣装がなく、私は他のコスチュームと音源を持っていたので、彼らが滑ることになりました。衣装も含めて、それくらい私も好きです。

 あとは(宮本さんが振り付けをした)『You Must Love Me』がけっこう好きですね。2分弱で短いんですけど、衣装も白で、私では絶対に思いつかない。ためるところもあったし、お客さんとコミュニケーションも取りやすかった。あと同じく先生が振り付けてくれた『I Who Have Nothing』も好きですよ。先生とやるといっぱいバリエーションがあって楽しい。『ボレロ』も好きです。

宮本 ありがとうございます。

安藤 他の選手だと、高橋大輔さんの『オペラ座の怪人』(06−07シーズンのフリー)が好きですね。

宮本 俺は自分が関わったのでは『eye』(バンクーバー五輪のシーズンに高橋さんが滑ったショートプログラム)なんだよね。06年トリノ五輪のフリーで荒川静香さんが演じた『トゥーランドット』も素晴らしかったし、(浅田)真央ちゃんのソチ五輪のフリー『ピアノ協奏曲第2番』も素晴らしかった。それぞれ好みはあるけど、やっぱりトップの選手は素晴らしいなと思う。どのプログラムもすべて記憶に残る。

安藤 そのスケーターの色も強いですよね。高橋さんも荒川さんも浅田さんも、中野友加里さんもキャラが強かった。私にとって女子の中での神はカロリーナ・コストナー選手(イタリア)かな。一緒に成長してきたというのもあるけど、やっぱりきれい。あとはミシェル・クワンさん(米国)。

宮本 長野五輪のころ、俺はイリヤ・クーリック(ロシア)だったな。あのキリンの衣装は格好よかった。

安藤 私はそのころ小さくて、長野五輪は大会から2年後くらいにビデオで見たんですけど、「このお兄さんはなんでキリンなんだろう」と思っていました(笑)。

メダル争いにも関わってくる振り付け

安藤さんが宮本さんにお願いしたいこと。「あと10年は絶対に振付師を続けてください」 【赤坂直人/スポーツナビ】

――お互いに聞きたいことはありますか?

安藤 聞きたいことというよりお願いです。あと10年は絶対に振付師を続けてください。

宮本 絶対に続けますよ。

安藤 娘が初めて海外試合に行けるレベルになったら、先生に振り付けをしてもらう。

宮本 美姫ちゃんの娘さんを振り付けしているところを想像してみてください。後ろの方で美姫ちゃんが鬼の形相して仁王立ちしています(笑)。

安藤 「違う」とか言ってね(笑)。

宮本 頑張ります。プレッシャーがハンパないです。

安藤 そこまで娘がやっているかは分からないですけどね。スケートはやわな気持ちでやってはいけないスポーツなので。

宮本 美姫ちゃんに聞きたいこと……。

安藤 ないですよね。こんなやりやすい生徒はいないですよ。

宮本 確かにレッスン中は……。

安藤 「レッスン中は」って(苦笑)。

宮本 とりあえず今の美しい安藤美姫でいてくれれば。

安藤 何が欲しいんですか?

宮本 う〜ん、バッグ(笑)。

安藤 話は変わりますけど、振り付けをしてもらうときは、スケーターたちも動いていて暑くなるじゃないですか。体が温まるまではモコモコの練習着でいいですけど、そのあとはなるべく体のラインが見える練習着を着てほしい。小さい子は練習着から格好よく着てほしいと思っています。

宮本 俺が振り付けのときに言うのは、白い服だけはやめてほしいということ。同化してしまうからね。

安藤 フィギュアスケートは人に見られるスポーツなので、普段の練習からなるべく美しく着てほしいし、そういう意識を持ってほしいなと思います。

――最後に、振り付けという観点から、平昌五輪をどう見てほしいですか?

宮本 振り付けというのは、踊るというだけではなく、その人の表情や感情を表すものだと思っています。ジャンプだけではなく、プログラムとして何か訴えるものがあるのかなど、見て共感するものがある。そういうことがメダル争いに向けて大事になってくるので、そこにも注目してもらいたいと思います。

安藤 滑っている側としては、ショートとフリー、踊れたらエキシビションもありますが、リンクの上で普段の自分ではない自分になれる。振付師さんの思いや、伝えたい自分の感情が広がったときに、人の記憶に残るプログラムになる。トップ選手だけではなく、ジャンプが苦手な選手でもすごくきれいなスケーティングをしたり、表現が内側から出てくる選手はたくさんいる。音楽とそのスケーターの調和、音との通いというのを第1グループから見ていただけると、よりトップ選手の素晴らしさや、そこに至る大変さ、努力というものがプログラムから見られるのかなと思います。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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