野球データがもたらした新たな価値 MLBでの活用事例とその背景
ビジュアル化が重要
2017年、MLB最長飛距離ホームランはジャッジの放った496フィート(約151メートル)弾 【Photo by Mike Stobe/Getty Images】
特に現在、野球のテレビゲームをきっかけに、本物の野球に興味を持ち始めたという人も多いだろう。そこで映像でデータを紹介する際には、ゲームのようなチャートを表示するなど、親近感や理解度を高める工夫を行った。データを数字として並べるのではなく、そこから生み出されるストーリーをいかにビジュアル化して伝えることができるかが、ファンに共感してもらえるかどうかのキーポイントだったとインゼリーロ氏は述べた。
スタットキャストを紹介する際に一番好きなプレーとインゼリーロ氏が披露したのが、14年ワールドシリーズ第7戦のあるプレーだ。打者走者のファーストまでのスピードの加速度をグラフ化し、ヘッドスライディングをした判断が正しかったのかどうかに明確な解答を出した。
このような視覚的要素を活用することができれば、より多くのファンが興味を持ってくれる。米国ではスポーツはあくまで“エンターテイメント”。データを提示する際に、ファンを楽しませなくては意味がない。データが物語るストーリーをどう見せることができるか、その重要性についてインゼリーロ氏は繰り返し強調していた。
時間と場所を超えて比較が可能に
そしてさまざまなデータを継続的に蓄積していくことで、現役選手の評価だけでなく、歴史をひもとき、読み解くことも可能となった。現役選手と過去の選手を比較して、競技や選手の進化を目に見える形で提供できるようにもなったのだ。
このようにファンへの伝え方に工夫する一方で、MLBAMはスタットキャストから分かるさまざまな細かいデータや指標をサイト上で公開している。ファンの間では数年前まではボールの回転数、回転軸、打球の角度、守備ルートの効率性などは野球を語る上で話題に挙がることすらなかったはずだ。これまで感覚的だったポイントがデータによって明確になってきた。徐々にデータが受け入れられていく中で、ファン自身がさまざまな分析を行い、新たな楽しみ方を別のファンに提供するサイクルを意識したからだとインゼリーロ氏は説明してくれた。データを閉じていたら、ファンの数も広がらなかっただろうし、野球への理解も進まなかったはずだと。
MLBは最先端技術を取り入れ、新たな風を吹かせながらビジネスを展開してきた。しかし、かれらは野球は文化であり家族や恋人、仲間と楽しむエンターテイメントのひとつであるということを忘れてはいない。いかにその文化の中でデータを自然に溶けこませ、人々を楽しませるか。データをエンターテイメントに取り組むビジネスへの挑戦はまだまだ続く。