「頭を真っ白にして」3アクセルを跳ぶ 15歳・紀平梨花が見つけた“ゾーン”

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リスクヘッジは考えておくべき

大技を成功させながらも表彰台には登れなかった。今後の課題は明確だ 【写真:坂本清】

 もっとも、こうした快挙を日本人選手が達成した喜びがある一方で、現実も直視しなければいけない。トリプルアクセル+3回転トウループを成功させながら、紀平は表彰台に登れなかった。上位3人はすべてロシア選手。技術点、演技構成点ともに紀平はその3選手に劣っている。

 またトリプルアクセルは大技であるぶん、失敗したときのリスクが大きい。紀平自身も「決まるか失敗するかで、気持ちや点数が変わってくるジャンプなので、6割くらいが2本のトリプルアクセルに懸かっている」と、その影響度を認めている。

 現在は、練習時間の半分くらいをトリプルアクセルに充てているという紀平。「できたと思ったらすぐにできなくなるジャンプなので、とにかく1日でも崩れないように心掛けて、毎日集中して練習しています」と笑顔を見せる。だが、リスクがあるぶん、もし失敗したときのリカバリーや、メンタル面の対策は考えておく必要があるだろう。この日はできなかったが、今回のようにどちらかのトリプルアクセルを失敗してしまったときは、後半の3回転ルッツ+2回転トウループのセカンドジャンプを、3回転に変えることも考えているようだ。

「もしかしたら今後もこういうミスがあるかもしれないので、そのときはすぐに頭を切り替えて、対応できるようにしたいと思います」

 紀平はそう語り、気持ちを引き締めた。

浅田さんとの比較はつきまとうが……

「良かったり悪かったりですね。大技を決めたあとに、3分半を滑り切る集中力がまだないので、何かやると思っていたら『やっぱり』という感じでした」

 紀平を指導する濱田美栄コーチは、相好を崩しながら演技を振り返った。愛弟子の失敗を予期していたようで、課題をズバリと指摘する。ただ、昨シーズンからの成長も感じており、その口調は滑らかだった。

「こういう大舞台でも演技前に話を聞けるようになりましたね。前はこんなにお客さんが入っていたら不安げにうろうろしていたんですけど、この雰囲気に慣れてきたのかだいぶ落ち着いてきました」

 女子史上初の快挙を達成したこともあり、今後はこれまで以上に期待が高まってくるだろう。特にトリプルアクセルを代名詞としていた浅田さんとの比較は、常につきまとってくる。紀平もそれを自覚しており、「浅田さんはもっとたくさんプレッシャーがあったと思う。トリプルアクセルは試合で跳ぶのが本当に難しいジャンプなので、まだまだ遠い存在です」と、その偉大さをあらためて実感しているようだった。

 それでも「今は集中して跳べているので、80パーセントくらいの自信はある」と力を込める。残りの20パーセントには経験不足を挙げたが、「今回はすごく勉強になったので、これからは一切ミスをしないようにしていくつもりです」と決意を語った。

 次の試合は2週間後の全日本選手権。年齢制限により平昌五輪の出場資格はないが、代表選考会を兼ねる同大会で、シニアの選手に負けない輝きを放つ可能性は十分にありそうだ。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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