キックオフから118分、歴史が動いた 集中連載「ジョホールバルの真実」(18)

飯尾篤史

中田英寿が放ったシュートのこぼれ球が岡野の目の前にこぼれ、激闘に終止符が打たれた 【写真は共同】

 川口のゴールキックからゲームは再開し、名波の縦パスを呂比須ワグナーが失い、奪い返そうとしてこぼれたボールを中田が拾った。
 センターサークル付近から中田がドリブルを開始する。
 その瞬間、北澤にはベンチからでも中田のドリブルのコースが見えたという。
「あ、スペースが空いたなと思った。そこにヒデがドリブルで入っていった」
 左斜め前方に突き進んだ中田は、ペナルティーエリアの外からゴール右隅を狙って左足を振り抜いた。脇を痛めたアベドザデがキャッチしにくいことを狙ったシュートだった。
 城が記憶を取り戻したのは、この瞬間だったという。
「アッと正気に戻ったら、ヒデがシュートを打つ瞬間だった。ヤバい、試合だと思ってゴール前に詰めようと思ったら、岡野くんが飛び出していって――」
 GKアベドザデが横っ飛びでセーブしたボールは、岡野の目の前にこぼれた。それまでシュートを外しまくっていた岡野は、丁寧に、確実に、スライディングしてボールを無人のゴールに蹴り込んだ――。
 その瞬間、激闘に終止符が打たれた。
 初挑戦となる1954年ワールドカップスイス大会の予選から苦節44年、日本の本大会出場がついに決まった。

<第19回に続く>

集中連載「ジョホールバルの真実」

第1回 戦士たちの休息、参謀の長い一日
第2回 チームがひとつになったアルマトイの夜
第3回 クアラルンプールでの戦闘準備
第4回 ドーハ組、北澤豪がもたらしたもの
第5回 焦りが見え隠れしたイランの挑発行為
第6回 カズの不調と城彰二の複雑な想い
第7回 イランの奇策と岡田武史の判断
第8回 スカウティング通りのゴンゴール
第9回 20歳の司令塔、中田英寿
第10回 ドーハの教訓が生きたハーフタイム
第11回 アジジのスピード、ダエイのヘッド
第12回 最終ラインへ、山口素弘の決断
第13回 誰もが驚いた2トップの同時交代
第14回 絶体絶命のピンチを救ったインターセプト
第15回 起死回生の同点ヘッド
第16回 母を亡くした呂比須ワグナーの覚悟
第17回 最後のカード、岡野雅行の投入
第18回 キックオフから118分、歴史が動いた
第19回 ジョホールバルの歓喜、それぞれの想い(11月14日掲載)
第20回 20年の時を超え、次世代へ(11月15日掲載)

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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