世界一に輝いたアストロズの明るい未来 第7戦の勝利が栄光へのスタート

杉浦大介

アストロズに適任だったヒンチ監督

ワールドシリーズで5本塁打を放つなどMVPに輝いたスプリンガー。来年以降もアストロズ黄金時代へさらなる飛躍が期待される 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 ただ……今シリーズではドジャースの敗因を見つけ出そうとするより、まずは何よりもアストロズの勝利をたたえるべきなのだろう。

 11年には56勝106敗と大惨敗を喫し、13年の開幕時のペイロールはメジャー最少の2700万ドルだったチームが、フロントの目論見通りに過去数年で一気に力をつけていった。低迷中のドラフトで指名したスプリンガー、コレアを軸に据え、周囲を綿密なスカウティングとデータ利用で上手に肉付け。昨オフには野手ではカルロス・ベルトラン、ジョシュ・レディック、投手ではチャーリー・モートンといったベテランをFAで加え、今季中にはバーランダーをトレードで獲得し、アストロズのチーム作りは終盤に近づいていった。

「このゲームはプレーヤー次第で、監督の仕事は選手の力を最大限に引き出すこと。必要に応じて叱咤し、ハグし、そして常に信じる。勝利を優先するカルチャーを作り上げることが大事なんだ」

 43歳のA.J.ヒンチ監督のそんな言葉も心に残る。データを重視する聡明さを持ち、同時に若い選手たちと心を通わせる若さとコミュニケーション能力を持ったヒンチは、このチームを率いるのに適した監督だったのだろう。分析力、身体能力に加え、仲間たちを信じることができたアストロズは、今季を通じて成長を続けていった。そして、集大成といえるワールドシリーズで多くの壁を一気に超えていくことになる。

先を見据える長期視野でのチーム作り

 リードを奪って9回を迎えたゲームでは93勝0敗だったドジャースに対し、第2戦では終盤に鮮やかな逆転勝ち。第3戦ではヒューストンのミニッツメイドパークで通算4勝1敗、防御率2.16という好成績を残していたダルビッシュを完璧に打ち崩し、第5戦でもワールドシリーズ史上に刻まれる5時間17分の死闘を13対12で制した。そして、第7戦では不利なはずの敵地でも見事に快勝し、ここでアストロズのサクセス・ストーリーはついに完遂した。

「今シリーズはワイルドで、風変わりで、気持ちのアップ&ダウンもあった。その中でプレーしたことは、何があっても一生忘れない。たとえこの舞台に立つのが最初で最後の経験になったとしても」

 激闘を制した後で、現在に感謝するスプリンガーの言葉には実感がこもっていた。ただ……彼らにとって、これは“最初で最後の経験”にはならないかもしれない。若手コレアが軸となり、聡明なフロント、監督に率いられ、長期視野でのチーム作りを進めるアストロズの未来は明るい。今季の勝利で自信もつけるだろう。だとすれば、“第7戦のドラマ”はラストチャプターなどではなく、栄光の時期のスタートでしかないようにも思えてくるのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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