後半は打率3割超のイチロー 前半戦と打撃の違いは?

丹羽政善

打球の初速も後半はアップ

イチローの打球速度も前半に比べると後半は初速が上がっている 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 さて、ここで冒頭の話に戻るが、さまざまな前半と後半のデータを比較していると、打球の初速にも顕著な違いが出ていた。

 4シームを打った場合、前半の平均初速は81.5マイル(約130.4キロ)だったのに対し、後半の平均初速は86.5マイル(約138.4キロ)。

 リーグ平均トップはアーロン・ジャッジ(ヤンキース)の94.6マイル(約152.2キロ)で、トップ10に入るとしたら90マイル(約144.8キロ)を超えなければならないが、前半と後半では、5マイル以上も差がある。この差は決して小さくない。

 そして打球の飛距離は、打ち出し角度と打球の初速に連動するが、これだけ初速が上がれば、練習でも必然的に柵越えが増えるわけである。
 もっとも打球の初速に関して、イチローは7月下旬にこんな話をしていた。

「2アウト三塁で、僕なんかはよく使っているテクニックだけど、速い球をショートの後ろに詰まらせて落とすという技術は確実に存在する。でも今のMLBの中での評価は、チームによってはそこで1点が入るよりも、その球を真芯で捉えて、センターライナーのほうが評価が高い。馬鹿げてる。ありえないよ、そんなこと。野球が頭を使わない競技になりつつあるのは、野球界としては憂うべくポイントだわね。野球って馬鹿じゃできないスポーツだから。でも、馬鹿みたいに見える時があるもんね。ほんとに」

 打球の初速だけを見ていても意味はなく、打ったときの打球の角度までもが数値化されるデータ主義的な大リーグの大きな流れに異を唱えた形だが、イチローが指摘したようにそれが評価対象となる現実もある。スイングスピードや打球の初速が遅くなれば、衰えたとみなされかねない。ただ、打球の初速が上がったことで、図らずも後半、イチローは評価を上げたとも言える。

 前半の成績のままだったら来季の契約がどうなっていたか分からない。しかし、盛り返したことで、選択肢が広がった可能性はある。

(※文中の打撃成績のデータは現地9月17日時点、打球の初速の後半戦データは9月16日時点のもの)

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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