バンニーキルクら輩出で飛躍の時代 南アフリカ陸連が行う選手強化とは?

K Ken 中村

ロンドンで6個のメダルを獲得した南アフリカ

男子400m世界記録保持者のバンニーキルクを輩出するなど、南アフリカ陸上界が躍進を見せている 【Getty Images】

 南アフリカ陸上界が今、飛躍の時を迎えている。

 8月のロンドン世界選手権では男子400メートルのウェイド・バンニーキルク(※原音では「ファンニーカー」の表記が近い)、男子走り幅跳びのルヴォ・マニョンガ、そして女子800メートルのキャスター・セメンヤによる金メダル3個を含む6個のメダルを獲得した。金メダル数で3番目(フランスと同数)、メダル総数でも5番目(イギリスと同数)という結果になった。

「われわれは27人の“精鋭チーム”でこの大会に臨んだ」と話すのは南アフリカ陸上競技連盟のプレス・アタッシェを務めたシフィソ・セレ氏。

「南アフリカ陸連はメダル獲得の可能性がある選手たちを選んだのです。選手団の規模、そしてそのメンバーなどはすべて陸連に決定権があります。政府は支援はするけれど、口は出しません」

 南アフリカ陸連が選んだ“精鋭”27人で、6個のメダルを獲得したのである。

 ロンドン以前の過去12回の世界選手権(※「アパルトヘイト」のため、南アフリカは最初3回の世界選手権に出場できなかった)で、南アフリカが獲得したメダルは9個の金メダルを含む21個であることを考えれば、今年は大きく飛躍したと言える。

「今回は13回の世界選手権で最高の成績を収めたので、われわれの選択は正しかったと思います。大きなチームは管理も大変だが、小さなチームなら選手一人ひとりに細かい支援ができます」

世界ユースで金メダル獲得数1位タイ

女子800mのセメンヤもまた南アフリカを代表する選手の一人だ 【写真:ロイター/アフロ】

 南アフリカには以前からスーパースターが多い。1992年バルセロナ五輪女子1万メートルの銀メダリストであるエラナ・マイヤー、01年エドモントンと03年パリの世界選手権で女子走り高跳び金メダリストのヘストリー・クルーテ(旧姓ストーベック)、そして09年ベルリン大会の男子800メートル金メダリストのムブイレニ・ムラウジなどが有名だ。そして現在はバンニーキルクとセメンヤが文句なしのトップに君臨している。

 次の世代も確実に育っている。昨年の世界ジュニア選手権(ポーランド・ビドゴシチ)では総メダル数は銀メダル3個だったが、今年の7月にケニア・ナイロビで行われた世界ユース選手権では、5個の金メダルを含む11個のメダルを獲得している。米国が出場していなかったとはいえ、国別金メダル数では堂々の1位タイ(中国、キューバと同数)だった。

「わが国のユース及びジュニアの選手は順調に育っています。一番大きな理由は若手を指導するコーチたちがプロフェッショナルなこと。そして若い選手たちが尊敬できるメダリストがいるということです」

 南アフリカ陸連は若い選手の健全な成長にはロールモデルとコーチングが重要と捉えているのだ。

 たとえば、若い選手たちに「尊敬する選手は?」と聞くと、「ウェイド(・バンニーキルク)」とほとんど全員が答えるそうだ。しかし若者をインスパイアするのは五輪メダリストだけではない。世界ユース選手権のメダリストも、同世代やさらに若い世代の尊敬を集める。そのため、すべての年齢別選手権で成功を収めることが重要だ。

 また、地域社会で競技を始めたばかりの選手をインスパイアする人材も重要であり、このようにして上のレベルを目指した選手が、やがてメダルを獲得し、次の世代をインスパイアする。プラスのスパイラルがうまく回っているのだ。

コーチをコーチすることも重要

南アフリカ陸連のシフィソ・セレ氏。南アフリカの強化は、コーチの育成も重要だと話す 【スポーツナビ】

 セレ氏は、選手だけでなくコーチの重要性も説明する。

「コーチを称賛することは重要です。選手はもちろんですが、コーチなしに陸連は意味を成しません。トップレベルの選手の育成には、トップレベルのコーチが重要です」

 さまざまなレベルにおいてコーチ育成の重要さも分かっており、「昨年は3回、コーチングのシンポジウムを開きました。コーチをコーチするのが重要なのです」と、ユースやジュニアのコーチ育成には、知識抱負な実績がある、上のレベルのコーチが一役買っており、コーチングの知識と技能の共有がうまくいっているのだ。

 もちろんすべてがうまくいっている訳ではなく、現在はハンマー投げややり投げのコーチの育成も必要だと話している。

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著者プロフィール

三重県生まれ。カリフォルニア大学大学院物理学部博士課程修了。ATFS(世界陸上競技統計者協会)会員。IAAF(国際陸上競技連盟)出版物、Osaka2007、「陸上競技マガジン」「月刊陸上競技」などの媒体において日英両語で精力的な執筆活動の傍ら「Track and Field News」「Athletics International」「Running Stats」など欧米雑誌の通信員も務める。06年世界クロカン福岡大会報道部を経て、07年大阪世界陸上プレス・チーフ代理を務める。15回の世界陸上、8回の欧州選手権などメジャー大会に神出鬼没。

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