【ボクシング】“ギャンブルの街”で勝者となった2人 メイウェザーは宣言通りのKO勝利で幕

杉浦大介

敗者ながら主役となりえたマクレガー

敗者となったものの、無敗王者に勇敢に立ち向かったマクレガー。そのハート、タフネスさは無視すべきでない 【Getty Images】

 ファイト前、どこかフィクションじみたマッチアップを“茶番”と切り捨てたファン、メディアは後を絶たなかった。

「王者と対戦したいならまずはキャリアを積むべき」という意見はもちろん正論。0勝0敗の新人と、プロ49戦全勝の元王者のファイトを認可したラスベガスコミッションまで含め、関係者は“金もうけ主義”と揶揄(やゆ)、批判されてしかるべきである。そして、案の定、実際の試合中もスキルレベルは高いとは言えず、上質なボクシングではなかった。

 ただ……例えそうだとしても、結果的に、今戦は少なからずのスポーツファンを喜ばせるエンターテインメントだったことは否定できない。フィニッシュも分かりやすく、エキサイティングなもの。2年前のメイウェザー対マニー・パッキャオ(フィリピン)戦と一線を画し、ヤマ場の多い展開に、特に普段はボクシングを見ない視聴者は満足したのではないか。

 この冒険活劇の主役となったのは、メイウェザーをも上回るスター性を誇示したマクレガー。

 中盤以降は技術の違いを見せつけられたが、“1発のパンチも当たらない”と酷評した専門家の意見は少なからず覆してみせた。主要なモチベーションはもちろん大金だったとしても、畑違いのボクシングルールでの一戦に臆せずに挑み、ハート、タフネス、そして恥ずかしくない程度の技量を示したアイリッシュの肝っ玉は無視されるべきではないのだろう。

メイウェザーは改めて引退表明「今夜、適切なダンスパートナーを選んだ」

“ギャンブルの街”でファンを楽しませ、お互いが欲していた結果を弾き出した2人 【Getty Images】

 そのマクレガーをリング上で称賛したメイウェザーは、事前から公言していた通り、試合終了後に改めて引退を表明している。

「これが最後のファイトだ。間違いないよ。今夜、俺は適切なダンスパートナーを選んだ。コナー、君はすごいチャンピオンだ」

 マクレガーの頑張りとともに、40歳を迎え、2年ぶりのファイトに臨んだメイウェザーの精彩のなさがこの試合をより難しくした感は否めない。高速連打にもキレ、バネがなく、すでに“スピードスター”と呼ばれるべきでもあるまい。だとすれば、リングを去るのには良い潮時なのだろう。

「ファンが見たがっていたものを見せた。パッキャオ戦で(凡戦を見せた)貸しがあったからね。真っ向勝負で、ファンにショーを見せなければいけなかった」

 凡庸な試合内容を酷評されたパッキャオ戦から2年以上が過ぎ、メイウェザーは本当にそこまで考慮してラストファイトに臨んだのか。いや、計算高いリングのビジネスマンが、“好戦的な戦い方ができる相手を選んだ”と考えた方が適切なのだろう。

 前述通り、マクレガーの健闘は予想以上だったが、中盤以降は危険の少ない格好のターゲットだった。

 こうして見ていくと、マクレガー、メイウェザーともに、大金だけではなく、お互いが望んでいたものを手にしたとも考えられる。マクレガーはボクシングファンからの多少のリスペクトを手に入れ、今後、ボクシングに残るにせよ、MMAに戻るにせよ、ストップ負け後も商品価値は下がっていない。メイウェザーは最後の最後でアグレッシブな姿勢を見せ、事前から宣言していたKO勝利をゲットした。

 そういった意味で、今夜の主役の2人はギャンブルタウンのウィナー。

 ベガスにてそれぞれの形でダイスを振り、批判を浴びながらも、欲していた結果を見事に出して見せたのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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