珍しく乱れた“ボルトらしさ” ラストランは銅、それでも主役はこの男

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人柄でも愛されてきたボルト

戦いを終えて、ライバルのガトリンと抱き合うボルト 【写真は共同】

 しかし、人々の記憶に残るという側面から見ると、この日の主人公はやはりボルトだった。

 13年のモスクワ大会後に現役引退を明言し、当初は16年のリオデジャネイロ五輪を最後の舞台としていた。しかし、「ここの観客はいつも最高で、いつもたくさんの愛情を示してくれる。だから自分も喜んでここに来ている」と大好きなイギリスの観衆の前を自身の花道に決めた。

 観客はその愛情の裏返しか、レース後もガトリンに対するブーイングを続ける。ただそれ以上にボルトをたたえる声援が鳴り止まない。ボルトは、ライバルであるガトリンへの無意味なブーイングを消し去るためか、自身がファンと触れ合う時間を増やし、カメラの前でお決まりの「サンダーボルト」ポーズを決め、観客からのボルトコールに両手を振って応え続けた。

「この場所は素晴らしく、観客のみんなにとても感謝している」

 レースで敗れた後、最初のテレビの質問にこのように答えたボルト。負けた悔しさもあっただろうし、自分らしい走りができなかった歯がゆさもあった。それでも一番にファンへの感謝の気持ちを示すことは忘れなかった。陸上界だけでなく、スポーツ界きってのスーパースターは、その能力だけでなく、人柄でも愛されるからこそ、その地位を確立している。そんなことをあらためて感じさせた姿でもあった。

銅メダルは最悪の記憶ではない

 記者からの質問で、世界選手権における「最悪の記憶」は05年ヘルシンキ大会の200メートル決勝で、最下位に沈んだレースだったと話すボルトだが、その理由は「遅かったから」と笑い飛ばす。今回のレースでは、カール・ルイス、モーリス・グリーンを超える世界選手権男子100メートル4度目の優勝とはならず、銅メダルで悔しい思い出にもなったかに見える。しかし本人は「もちろん、たくさんの思い出がつまっているし、自分のキャリアやすべてが含まれている。全力を尽くせたので幸せだ」と最悪の記憶が更新されることはなかったようだ。

 ボルトは大会9日目、12日に行われる4×100メートルリレーにも出場すると明言しており、本当の“ラストラン”はそのレースになる予定だ。

 ボルトは応援してくれる人々に囲まれ、その期待に応える走りを見せてきた。今回、100メートルでは獲得できなかった12個目の金メダルを手に有終の美を飾るか、それとも、再び“人類史上最速の男”に打ち勝ち、短距離界の歴史を繋いでいく選手たちが現れるのか。その最後のレースにも注目したい。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

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