「彼は宇宙人」意外性の男・多田修平 メンタルタフネスを武器に世界陸上へ

高野祐太

制御能力が光った日本選手権

悪天候の日本選手権でも力を発揮 【写真は共同】

 こうやって多田の精神面に焦点を当てると、初体験の日本選手権の100メートル決勝が9秒台候補5人による世界選手権の代表権を懸けたサバイバル戦だったにもかかわらず、堂々と準優勝してしまったパフォーマンスがふに落ちる。

 興味深いのは、準決勝では対戦相手に気を取られて走りを乱しながら、決勝では立て直して勝負強い走りをなし遂げた制御能力だ。

 6月23日の準決勝。先を急ぐあまりに60メートル付近で力みが生じ、オーバーストライドになってしまう。サニブラウン・アブデルハキーム(東京陸協)に次ぐ10秒10の2組2着という結果に、多田はこう振り返った。

「後半の内容が全然だめだった。前に人がいるとちょっと硬くなるくせがあるので、決勝は周りを気にせず、自分の走りに集中したい」

 そして、これとまったく同じ見方をしていたのがほかでもない、花牟禮監督である。レース後、多田にメールを送る。

「気持ちで前に行こうとしないこと。重心を乗せることができれば、おのずから結果は残せる。勝ちを捨てること。自分の走りをすること。周りに惑わされずチャレンジャーであること。レースを楽しんできてください」

 多田の返信は「ありがとうございます。これらの助言を生かして頑張ります」だった。

経験を重ねるごとに増すたくましさ

 翌24日の決勝は、準決勝でつまずいてしまった問題点を見事にクリアしていた。後半も伸びを欠くことはなく、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)の追い上げをかわす。10秒05で大会新のサニブラウンには優勝を譲ったものの、ほかのライバルたちを退ける10秒16のフィニッシュだった。

 レース後、「後半もいい感じでスピードを維持できた」と手応えを口にした上で、「視点を真っすぐにして、自分のレーンだけを見つめて走りました」と初めて得られた集中の視覚イメージに言及した。持ち前のタフな精神力を発揮するための、新たなコントロール方法を獲得したということなのかもしれない。

 初めての世界選手権の号砲のときが近づく。語った目標は「僕にとって最大の目標は東京五輪なので、100メートルでは最低でも準決勝に進みたいし、400メートルリレーのメンバーに選ばれたらリオ五輪の銀以上のメダルを取ってきたい」。これまでとは比べ物にならない世界最高峰のレースでどんな暴れ方をしてくれるか、多田からますます目が離せなくなってきた。

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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