米国で躍動する元高校トップランナーの今 2年半の“浪人生活”を経て、いざ世界へ

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ブランクを乗り越え「米国が僕のホーム」

憧れていた米国での留学生活。渡米から1年半が経ち、チームにもすっかり打ち解けた 【写真提供:打越雄允】

 苦労を重ねてたどりついた新天地。年明け早々チームに合流したが、選手として犠牲にした2年半の空白は、想像以上に大きかった。

「持ちタイムではトップだと分かっていたので、『少しブランクがあるけど走れるだろう』という気持ちでしたが、ふたを開けてみると、体はうそをつきませんでした。練習は1番下のグループでやっていましたし、最初のレースもタイムは1番下でした。『ああ、ここまで走れないのか』って(苦笑)。頭では『このペースで走れるだろう』と思って走るのですが、できないんですよ。混乱してしまって、何をしたらいいんだろうというのはありました」

 それを見たコーチや仲間は「ブランクがあるんでしょう? 走っていなかったんだから当然じゃない」、「だんだん戻ってくるよ」と、ポジティブな言葉で励ましてくれた。当初は英語でのコミュニケーションに不安があったが、仲の良いチームメートが助けてくれたこともあり、だんだんとチームにもなじんでいった。

 それから1年半が経った今、体や走る感覚も戻ってきて「やっとまともに走れるようになった」という。米国での競技生活も板につき、最近は「米国が僕のホーム」とまで感じるようになった。遠回りした時間は、全く後悔していないと断言する。あの日々があったからこそ、今があるのだと。

「米国で競技をして、友達を作ってすごく良い経験ができている。あの2年半は絶対に無駄じゃなかったと思います」

競技以外の経験が、競技につながってくる

競技だけでなく、学業や日々の生活で学ぶすべてが“競技生活”だと打越は言う 【赤坂直人/スポーツナビ】

 この秋、最終学年を迎える。打越にとっては留学2年目にして勝負のシーズンとなる。来季の目標は、NCAA(全米大学体育協会)の全米学生クロスカントリー選手権5位以内、トラックでは出場種目で全米学生選手権3位以内。卒業後はプロに転向して米国でトレーニングを続け、3年後に迫った東京五輪はトラック種目で目指すというのが、今の青写真だ。

 ただし、今の打越は陸上がすべてではない。結果が求められるプロ選手とは違い、留学生の場合は学業を含めた日々の出来事すべてが“競技生活”なのだと強調する。

「米国で競技だけをするのは簡単です。行って走るだけですから。でも、僕たちはチームメートと一緒に話したり、文化を学んだり、授業に参加したり、そういうのも含めて米国で競技をしているんです。日本人として知らないことはたくさんありますよね。そういうことを学ぶと、競技を抜きにして人として成長できる。視野が広がるというか、見る世界が変わってくる。競技とは別の経験をすることが、直接じゃないにしても、競技に少しつながってくるのではないでしょうか」

 後輩たちに対しては、必ずしも海外に出てほしいとは思わない。現在、高校時代の後輩でもある岡田健(カリフォルニア大バークレー校)や、15年日本インカレ1500メートル優勝の実績を持つ小山香子(当時順天堂大、現ニューメキシコ大学大学院)が米国に陸上留学しているが、その数はまだ少ない。ただ、米国留学を志す人がいれば手を差し伸べてあげたいとの思いは強い。打越は表情を引き締めてこう訴える。

「(今は)留学までの過程がハッキリしていないから、米国に行く選手が少ないのではないかと思います。僕はその過程を知ってほしい。日本から米国を志す選手がもう少し増えれば、箱根駅伝だけじゃなくて、米国も含めた大学陸上をもっと楽しめるんじゃないかなと思っているんです」

 その言葉に万感の思いを込めた打越。少し遠回りはしたが、陸上選手として、そして一人の人間として、これからも成長曲線を描き続けることだろう。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

プロフィール

打越 雄允(うちこし ゆうすけ)
1994年8月11日生まれ。米国ボイシ州立大(アイダホ州)3年。与野西中3年次に全日本中学陸上選手権1500メートル優勝。國學院久我山高に進み、2年次に全国高校総体1500メートル2位。2016年1月にボイシ州立大に進学。同年10月、マウンテン・ウエスト・カンファレンスのクロスカントリー(8キロ)優勝、11月の全米学生クロスカントリー選手権(10キロ)18位。翌5月に同カンファレンスの3000メートル障害を制し、カンファレンス2冠を達成。今春、社会学から専攻を変更し、コミュニケーション学を学んでいる。

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