歴史に翻弄されたロシアの古都 コンフェデ杯都市探訪<サンクトペテルブルク篇>

宇都宮徹壱

「来年は絶対に、この国を再訪することにしよう」

コンフェデ杯は若きドイツの優勝で幕を閉じた 【写真:ロイター/アフロ】

 チリとドイツによる決勝については、すでに多くの報道がなされているので、ここでは簡潔に記す。ドイツの決勝点が生まれたのは前半20分。チリがボールを下げた時、ラース・シュティンドルが前線からプレスをかけ、マルセロ・ディアスのミスを誘ったところで反対側からティモ・ベルナーがボールを奪取。慌ててディアスがボールを取り戻そうとするが、ベルナーからフリーのラース・シュティンドルにボールが渡り、楽々ゴールが決まる。ドイツにとっては、これが最初のシュート。この直前には、チリのアレクシス・サンチェスがドイツGKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンと1対1となる場面があり、それまでにも4回の決定機を迎えながら南米王者はネットを揺らすには至らなかった。

 多くの時間帯でゲームを支配していたのはチリだった。スタンドの観客も、ドイツに比べてチリのサポーターが圧倒的に多く、ほとんどホームに近い雰囲気を作り出していた。ほとんどの選手が代表キャップ数10前後で、こうした大舞台での経験に乏しく、しかも休みがチリより1日少ないドイツが劣勢に立たされるのは想定内。よってこの日のドイツは、両ワイドを下げて5バックとし、ほとんど5−4−1の陣形で奪ったら縦にカウンターという戦い方を徹底した。対するチリもまた、世界大会の初タイトルに向けてどこまでも貪欲な姿勢を貫く。結局、ドイツが逃げ切る形で初優勝を決めたが、歴代のコンフェデ杯決勝の中でも特筆すべき好勝負であり、大会の価値を高める素晴らしい内容だったと言えよう。

試合後、サンクトペテルブルクの夏空に花火が打ち上がる。来年は絶対に再訪しようと心に誓う 【宇都宮徹壱】

 試合後、クレストフスキー・スタジアムを出ると、6万人以上の観客が一気に吐き出されていく光景が実に壮観だった。やがてサンクトペテルブルクの夏空に、派手な花火が打ち上がる。勝ったドイツのサポーターも、敗れたチリのサポーターも、そして傍観者だったロシア人の観客も、夜空に描かれる光の軌跡に見入っている。ある者は歓声を上げ、ある者はスマートフォンで撮影し、ある者は祖国の旗を振っている。試合の結果に関係なく、皆が笑顔で大会の閉幕を惜しんでいる。何とも幸せな気分に浸る一方で、この場にいる日本人が数えるほどしかいないことが、今さらながらに残念に思えてならなかった。

 かくして、ロシアでのコンフェデ杯は閉幕した。思えば今年4月、サンクトペテルブルクの地下鉄で爆弾テロ事件が起こったこともあり、いささかの不安を抱えながらの今回のロシア取材であった。しかし久々にこの国を訪れてみると、意外とストレスなくフットボールの試合を楽しむことができることに気付かされた。英語が通じない、厳重な警備が面倒、飛行機がよく遅れるといったネガティブな面もないわけではない。それでもトータルで見れば、18年のロシアでのW杯は日本のサッカーファンにとっても、楽しめるビッグイベントになりそうだ。来年は絶対に、この国を再訪することにしよう。もちろん、われらが日本代表とともに。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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