権力者に愛されたリゾートの街 コンフェデ杯都市探訪<ソチ篇>

宇都宮徹壱

リスクを克服して決勝に挑む「新しいドイツ」

「B代表」と言われてきた今大会のドイツ代表は、試合を重ねるごとに自信とたくましさを身に付けた 【宇都宮徹壱】

 最後に、そんなソチで29日に行われた準決勝を振り返りたい。すでに地元ロシア代表が大会を去ったため、巨大なスタンドにはところどころ空席も目立つ(それでも、この日のアテンダンスは3万7923人)。前日、カザンで行われたポルトガルとチリの準決勝は、120分間スコアレスの状態が続き、結局PK戦に競り勝ったチリが決勝に進出(3−0という珍しいスコアだった)。しかしドイツとメキシコの一戦は、序盤から連続ゴールが生まれる展開となった。

 ドイツは前半6分、レオン・ゴレツカが右サイドに展開するベンヤミン・ヘンリヒスにパス。ヘンリヒスがダイレクトで折り返したところを、長駆したゴレツカが右足インサイドでゴール左隅に流し込んで先制点を挙げる。さらに2分後、今度はティモ・ベルナーからのスルーパスに、またしてもゴレツカが反応。メキシコGKギジェルモ・オチョアの動きを見極めて再びゴール左隅にシュートを収める。

 しかしその後のドイツは防戦一方。メキシコに主導権を握られる中、両ウイングを下げて5バックで対抗し、GKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンのファインセーブもあって、何とか無失点で持ちこたえる。後半14分には、ユリアン・ドラクスラーのスルーパスにヨナス・ヘクトルが左から折り返し、最後は中央のティモ・ワグナーがフリーで押し込んで3点目。メキシコも後半44分、途中出場のマルコ・ファビアンが目の覚めるようなロングシュートを決めて意地を見せるも、アディショナルタイムにドイツは1点を追加する。結果、4−1という圧倒的なスコアで、ドイツが初の決勝進出を果たすこととなった。

 当初は「B代表」と揶揄(やゆ)されてきた今大会のドイツ代表。しかし、試合を重ねるごとに自信と逞(たくま)しさを身に付け、3バックのシステムもしっかりと板についた「新しいドイツ」へと変貌していった。コンフェデ杯という大会は開催国のみならず、ディフェンディングチャンピオンにとっても、連覇を目指すための重要なシミュレーションの場である。そんな中でヨアヒム・レーブ監督は、あえてキャップ数10前後の若手でチームを編成し、しかも新システムを導入して今大会に臨んだ。失敗すれば世論からたたかれ、連覇達成に暗雲が立ち込めることになっただろう。

 そんなリスクを克服した「新しいドイツ」と、ますます士気を高めている南米王者のチリ。どちらが勝っても初優勝というサンクトペテルブルクでのファイナルは、これ以上にない最高のカードとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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